第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

兼続の前には淡い色の緑茶が置かれた。どう考えても甘い飲み物を飲んでいるイメージがないという彼方の主張に同意し、選んだ結果である。手前に置かれたビニールに包まれたストローを見て、不思議そうな眼差しを浮かべた事に小さく笑った凪が飲み口などへ触れぬよう気遣いながら、ストローを兼続のグラスへ差す。

「これで吸って飲むんですよ」
「随分と珍妙なものを使って飲むんだな」
「慣れると案外快適です」

現代のものに興味がないかと思いきや、兼続は案外不思議なもの、奇妙なものなどに関心があるらしい。グラスに刺さったストローを不思議そうに眺めている彼にくすりと笑いを零した後、凪はその隣に居る幸村の前にグラスを置いた。

「はい、幸村はこれね」
「おー……って、何だこれ。すげえ色してるぞ」
「幸村、それはコーラという飲み物だ」
「こーら？何か墨みてーな色してんな」

幸村の前に置いたのは佐助が教えてあげた通りコーラである。彼方と協議した結果、満場一致で幸村には何となくコーラが似合うといった結論に至ったのだった。決してまとっている浴衣が赤系だからという理由ではない。グラスの中で小さな気泡を幾つも浮き上がらせるそれを前に、怪訝な面持ちをしていたが、佐助が言うのならば害はないのだろうと判断し、凪が兼続にやっていたのを見ていたらしく、自分でストローを差していた。

「佐助くんはアイスコーヒーで良かったかな」
「大丈夫、ありがとう凪さん」

佐助は甘い飲み物というイメージではなく、コーヒー系だなという意見でまとまった為、それを目の前に置く。一応ミルクとガムシロップ、マドラーを添えて置けば、幸村が目を瞬かせた。

「佐助のもこーらじゃねーのか？」
「これはコーヒーという飲み物で、どちらかと言えば苦い。幸村のは甘いけど、ちょっと刺激があるかも」
「何で飲み物に刺激物が入ってんだよ」
「まあ、そういう飲み物だから」
「ふーん、五百年後の連中は変わってんな」

ズッ友の話を聞きながら、凪が彼方の前にアイスティーを置く。実はそんなに甘党ではない彼方は、基本紅茶もコーヒーもストレートで飲む派である。