❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
きゃっきゃと楽しげにグラスを次々動かし、様々な飲み物を少しずつ混ぜて行く、所謂ドリンクバー内の飲み物全部混ぜを行っている小娘達の姿を光秀が眺めていると、不意に視線に気付いたらしい女子高生が顔を紅く染めてきゃあきゃあ黄色い声を上げながら、手に凄まじい色をしたグラスを持って席へ戻って行った。じっと男が視線を向けた先には、彼方が予め用意していた氷の入った空のグラスがある。凪と彼方は人数分の飲み物を用意している為、光秀の方には気が付いていない。軽く片手を顎へあてがい、やがて光秀は目の前にある空のグラスを手にしたのだった。
「光秀さん、あとひとつグラス……って、そ、それは…」
「なに、俺も秀吉に茶を汲んでやろうと思ってな」
「それはもしや……ドリンクバーの飲み物全部混ぜたんじゃ…」
「明智さん、女子高生みたいな事して遊び心満載過ぎ、ウケる。面白いからそのまま持ってこ」
「ええ!?」
光秀の手には言葉で表現し難いどどめ色の液体が注がれたグラスがあった。どう考えてもアイスコーヒーが強く主張している、しかし炭酸の気泡が浮いていたりカフェオレのミルク成分が混ざり合っていたりするものを前に、凪が恐る恐る光秀を見る。大人で冷静沈着、敵を前にしても決して取り乱さない、余裕な様を見せる光秀だが、実は割と遊び心満載な男なのだ。凪がひくりと片頬を引き攣らせている横で彼方がそれを見やり、可笑しそうにけたけたと笑う。とんでもなく危険な色しかしていないそれを見て、席へ持って行こうとする彼方へ凪が困り切った声を上げるも、同じく遊び心満載過ぎる友人もすっかり乗り気になっており、凪は致し方なく苦笑した後、秀吉の為に変えの飲み物をそっと用意した。
「イケメンってトレーにグラス乗せてるの運ぶだけでも絵になるんだね」
「光秀さん器用だなあ」
結局飲み物に入ったグラスは二つのトレーに分けられ、実に危なげも無く光秀がすべて一度に運んでくれた。周りの女性客達が、浴衣姿でトレーを両手にそれぞれ持つ男のすらりとした長身の姿に目を奪われる中、後方を歩きながら彼方が呟く。