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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



「この店は客に茶を運ばせるのか」
「あ、ちゃんと持って来てくれるお店もありますよ。ここは自分で好きな飲物を何杯でも持って来れるお店なんです」
「ほう…?杯数に制限がないというのは珍しいな」
「向こうではお茶一杯でいくら、っていう計算ですもんね」

不可解だと言わんばかりの発言に凪が笑って答えた。乱世ではセルフサービスなどあまりなく、店の者と客との線引きがある程度明確である為、そういった感想を抱くのは致し方ない事である。その辺りは光秀も驚いたらしく、軽く眸を瞠っていた。

「娘二人でこの人数分の茶を運ばせる訳にもいかないからな。俺も手を貸すとしよう」
「ありがとうございます、光秀さん」
「明智さん、そういうとこ彼氏力高いねー」
「お褒めに預かり光栄だ」

掘り炬燵から立ち上がった光秀が、凪の元まで近付き、片手を差し出す。差し出された手を取り、そっと立ち上がった凪が礼を告げると、彼方が感心した様子で呟く。瞼を伏せ、男が口元に緩やかな笑みを浮かべた。そうして、凪と彼方、そして光秀の三人はドリンクバー【三途の川】へと向かったのだった。

三途の川は席から少々奥まった位置に設置されている。一行は入り口付近の座敷席についている為、三途の川まで行くには、席の合間を縫って行く必要がある。立ち上がった時に差し伸べられて以来、手を繋いだままで歩いていた凪と光秀だったが、突き刺さる好奇の視線と恍惚な眼差し、男性陣からは羨望の視線を一身に受けても一切動じない男、明智光秀の姿は、さすがに城下で町娘達から注目される事に慣れているだけはある。ひそひそと交わされる女性陣達からの声が漏れ聞こえ、その度に何となくいたたまれない気持ちになった凪を、光秀が振り返った。

「凪」
「は、はい」
「周りの声など気にする必要はない。どの道、お前以外この目に入る事は、この先ないからな」
「!!!?」

きゃああ!と漣(さざなみ)の如く黄色い歓声が店内に響き渡る。彼方はさっさと先に行き、さも他人ですといった様子でグラスに氷を入れていた。

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