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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



別に変な意図など含まれていない筈であるのに、光秀の唇から紡がれるその音に妙な含みがある気がして、凪はじわりと無意識下で耳朶を染めた。ぱっと下を向いて小さく頷けば、くすくすと鈴を転がすような笑い声が鼓膜を揺らす。そんなこんなで武将達は各々己の名がついたパフェを頼む事になったのだが、秀吉は品書きを眺めながら、割と真剣に悩んでいた。

「秀吉様、どうされましたか?」

難しい面持ちを浮かべる主君を視界に映し、どうしたものかと三成が不思議そうに首を傾げる中、家康がしれっといつもの調子で溜息混じりに告げる。彼の前には既に例の小瓶が出されていて、まだ見ぬパフェを真っ赤に染める気概に満ち溢れていた。

「信長様を頼もうか、自分の名のものを頼もうか迷ってるんじゃない?」
「当然だ。信長様の名が冠されたものを見過ごす訳にはいかない」
「……本当にそれで悩んでたんですね」

秀吉が実に悩ましげに応える。指摘の通りであった事に家康が若干引き気味で告げると、凪の隣に居た兼続も些か難しい面持ちを浮かべて品書きを涼やかな藤の眸で見据えた。

「……やはり俺もここは己の忠義を尽くし、謙信様を食すべきか」
「兼続さん!?」
「謙信様を食すって、ちょっと不穏なワードですね」
「食い物ひとつで不忠者になってたまるか」

ぽつりと些か真剣に呟かれた一言に凪が驚く。秀吉と張り合える程の主君忠義心が強い男の存在をすっかり忘れていた佐助は、彼の口から零れた耳慣れないワードに戦慄する。ぴしゃりと言ってのけた幸村の突っ込みに、ふと兼続は思いとどまったようであった。

「秀吉さんはどうします?」
「そ、そうだな…やはりここはせっかくの機会を無駄にしないよう、自分の名のものを……」
「いいのか、秀吉。確かに幸村殿はたかが食い物ひとつと言ったが、その食い物ひとつですら己の忠義を貫いてこそ、真の右腕と呼べるんじゃないか」
「……くっ、確かに…」

(み、光秀さんの揺さぶりが始まった…!)

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