第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

兼続が指したものを隣から覗き込み、幸村が頷く。幸村と兼続、互いの上司が熾烈な戦いを繰り広げた合戦名はどうしても視界に入ってしまうらしく、感心した様子で呟いた佐助を余所に、凪が首を傾げた。彼女の疑問を解消するよう、光秀が解説を加えると凪が驚いたように目を見開いて反芻する。

「ちなみに川中島の合戦は椀子蕎麦だよ」
「随分蕎麦が多いな…さっきの参勤交代ってやつも蕎麦じゃなかったか？」
「もしかして、何度も繰り返し戦ったから椀子蕎麦…？」
「多分ね。ちなみに味もちゃんと上杉味と武田味の二種類あるから、好きな方を食べて応援出来るって訳。ちなみに食べられた杯数の合計があそこに貼り出されてるよ、ほら」

彼方が川中島の合戦の正体を明かすと、秀吉が苦笑する。やはり和風コンセプトだからだろうか。それを言ってしまえば敵は本能寺にありはパスタだが、南蛮好きな信長が関わっているから蕎麦では無かったのかもしれない。椀子蕎麦と耳にし、ふと思い至った事を彼方に告げれば、彼女も同意を示し、壁に貼り出された表を指差す。赤と水色の丸形シールが縦に貼られていた川中島の合戦の杯数は、両軍共に史実通り拮抗していた。

「もはや甘味処に留まらず、食事処だな」
「あ、次のページにもお品書きありますよ」

乱世では料理メニューの棲み分けが割と顕著という事もあり、五百年後の品書き内容の雑多具合に驚いたといったところだろうか。肩を竦めた光秀に対し、凪が声をかけてもう一ページあったらしいメニューを捲った。

「そうそう、私がオススメしたいのは、料理のページじゃなくてむしろそっち。戦国武将パフェ」
「ぱふぇ……って何？妙な響きの名だけど、もしかして南蛮語？」
「まあそんなところ」

凪がページを捲ると共に、彼方が頷く。耳に慣れない単語を聞き咎め、家康が問うと彼方が肯定を示した。実はこのカフェの売りは謎のメニューだけでなく、このパフェである。相変わらず文字だけの品書きを視線でなぞり、凪がそれを不思議そうに読み上げた。