❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「なるほど、本能寺の炎上を激辛で再現したのか。噂には聞いてたけど、かなり攻めたメニュー展開だ」
「なんで感心してんのか知らねーけど、これじゃ何がどんな品なのかさっぱり分からねえな。客は注文する時困らねえのかよ」
イカスミ激辛パスタと言われても武将達としてはさっぱりだが、コアな歴史オタクはそこに込められた意味や意図を考察し、それを語り合うのがこの【群雄割拠】の醍醐味としても知られている。またしても的確且つ常識的な突っ込みをした幸村へ、秀吉が同意するかの如く頷いた。並んでいる文字は、馴染みのある言葉から、まったく知らないものまで様々だが、それ等を武将が眺めているだけで、既に彼方と佐助からしたらエモいの一言である。
「では彼方様、こちらの関が原の戦いとはどのような品なのでしょうか」
「鶏そぼろと玉子の二色丼。真ん中から真っ二つに色が分かれてるの。ちなみに鶏そぼろが東軍イメージらしいよ」
「まるで天下分け目の戦いを象徴しているようだ。その頃の時代背景好きとしては非常に熱いメニューだな」
「初めて来た人は頼んだものがどんなのか分からないから、ある意味スリリングだね…」
「それも楽しみのひとつってやつでしょ」
三成が関ヶ原と口にするだけで、あまり歴史に詳しくない凪でもそわりとした感覚に陥る。いちいちメニューを指して店員に詳細を訊く訳にもいかず、運ばれて来るまでは何が来るか分からない、かなりギャンブルなカフェという事で、歴史オタク達の中で一躍有名になったという背景があるのだが、それはこの中では彼方と佐助のみ知る事実であった。
「兼続さんは何か気になったものありました?」
「…これだな」
無言で文字の羅列を眺めている兼続に凪が振り返り、問いかける。彼女に問われた兼続は、しばし視線で筆文字をなぞった後、白くしなやかな人差し指で一点を指した。
「川中島の合戦か。俺もちょっと気にはなってた」
「幸村も兼続さんも、お互い上司がぶつかり合った合戦の名前は気になるんだな」
「川中島……?」
「謙信殿と信玄殿が十二年の間で五度の戦いを繰り広げた地の名だ」
「十二年で五回!?」