❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
心無しかきらきらとした視線を家康へ向けていた凪の様子を見やり、秀吉はそっと光秀へ意識を向けた。
(あいつがすぐに動かないって事は、あれは危険なものじゃないのか)
光秀が動かないのは、凪にそれを実際見せられている為だ。正直初めて電源を入れた時は光秀もそこそこ驚いたが、今では割と普通にそういう類いのものなのだと受け入れている。光秀の様子を確認し、問題がない事を家康へ伝えようと秀吉が口を開こうとした刹那、三成が普段は柔和な眼差しを鋭くさせ、そっと刀の柄へ手をやった。
「…家康様、及ばずながら私も魑魅魍魎退治、お手伝い致します」
「こらこら、ちょっと待てお前達」
「……これがギャップ萌えってやつか」
「うん、ギャップ萌え」
家康と共にスマホを退治する気満々の三成を秀吉が止めに入る中、ぽつりと佐助が呟く。それに同意するよう凪がおもむろに頷けば、光秀が金色の双眼を僅かに瞬かせて問いかけた。
「もえ、とはなんだ。佐助殿」
「なんというか凄く要約すると、特定のものや人へ愛着や愛情、共感などの感情が湧き上がる事を指します」
「…ほう?凪、他の男へ心を移すとは悪い子だ」
「ち、違います!そういう恋愛的な意味じゃなくて、ただ反応が意外で可愛いなって思っただけで…!」
「は?可愛いってなに」
まさか萌えを口にする明智光秀を目の当たりにするとは、というのは問われた佐助の密かな感想である。話題に上がった萌えについて、実に簡潔な説明をすると、光秀は何事かを納得したように小さく相槌を打ち、指先で凪の耳朶をぴん、と弾いた。些か眉を寄せた光秀へ必死に弁明すると、それを聞いた家康がむっと憮然とした面持ちになる。
「と、とにかくこれは危険なものじゃないから大丈夫。心配してくれてありがとう、家康に三成くん」
「……あっそ、あんたが無事ならそれでいいけど」
「危険はないのですね。安心致しました」
凪が色々と誤魔化すように笑い、それでも自身を心配してくれた事へ礼を告げれば、家康はふいと顔ごと視線を逸らして短刀の柄から手を離す。