❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
同じく隣のテーブルでメニューを覗き込んでいた家康が不思議そうに問いかけると、佐助が実に嬉しそうな声(ただし無表情)でつらつらと説明を述べた。突如飛び出した孫発言に明らか怪訝な面持ちを浮かべた家康に対し、彼方がまあまあと声をかける。
「ちなみに参勤交代は三色ざる蕎麦ね。色は黄色と緑と白。普通に美味しいよ」
「彼方…もしかして常連なの?」
「うん、ポイントカード凄い貯めてる」
一年毎に交代するから、そういう意味で蕎麦の色を三色にしているのかな…などと凪が考えながら彼方を見る。彼女はさも当然とばかりに頷き、メニューへ視線を戻した。ちなみにメニューの内容も大まか把握済みらしい。メニューはとてつもない達筆な筆文字で書かれている事もあり、明朝体などのかっちりした文字でない事から、却って武将達も認識可能なようであった。そんな中、光秀が文字の羅列の中から一点を指し、それをおもむろに読み上げる。
「これは何という料理だ。敵は本能寺にあ…──────」
「駄目っ、光秀さん駄目っ!!」
「どうした、凪」
光秀が有名な例の科白を口にしようとした瞬間、凪が必死にそれを止めた。困窮した様子の彼女を前に些か双眼を瞠った男は頬杖を解いて片手を伸ばし、さらりと彼女の頭を優しく撫ぜる。
「うう……それは駄目、光秀さん…」
「委細は分からないが、お前がそう言うのならば口にしないようにするとしよう」
眉尻を下げる凪の姿を前にして柔く笑んだ光秀が、よしよしと宥めるように大きな掌で彼女へ触れる。心無しか愉しげな様子を男の表情の端々に垣間見た彼方は、些か胡散臭そうな目で光秀を見た。ぱちりと視線がぶつかり合い、金色の双眼が眇められる。ゆるりと描いた弧を見て、そういえば兼続と幸村が呉服屋で着替えていた時、京都の歴史案内のパンフレットを光秀がさり気なく見ていた事を思い出し、内心溜息を漏らした彼方が、さらりとメニューの正体を明かした。
「ちなみにそれはイカスミ激辛パスタだからね。凄い色よ、マジで」