❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
店内の和要素溢れる愛らしくも古風な空間にそぐわない、実に雄々しい店名を掲げたこの戦国武将カフェは、歴史オタク達の中では割と名の知れた店であるらしい。あちこちから武将達の名や合戦名が飛び交っているのは、客達が皆歴史オタクだからなのだろうか。佐助はくい、と眼鏡のブリッジを押し上げ、彼方を見る。
「実は以前からこの店には足を運びたいと思っていたんだ。だからこういった形で来る事が出来て嬉しいよ。男性客も居るとはいえ、男一人で入るにはかなりの勇気が必要だから」
「確かに女の人の方が割合多めだもんね。複数で入れば気にならないかもだけど、一人は厳しいかも…」
佐助が無表情の中に喜びをほんのりと覗かせて告げた。男性客はいずれも数人のグループで来店しており、奥の方の席で固まっている。そっと苦笑して凪が同調すると、光秀の隣に座っていた秀吉が心底怪訝な面持ちを浮かべて店内を見回した。
「ここは一体何の店なんだ。食事を提供する店のようにも見えるが」
「このお店は、カフェって言って…えーと、乱世風に言うと軽食も出る甘味処って感じです」
「ほう……?凪、お前が好みそうな店だな」
「はい、こっちに居る頃は彼方とよくカフェ巡りとかしてました」
秀吉の疑問に応えるかの如く、凪が出来るだけ噛み砕いて教える。甘味処、と耳にした光秀が自らの正面に座る凪に向けて双眸を軽く瞬かせれば、彼女が笑顔で頷いた。
「五百年後の世の甘味処かー、如何にも信玄様が喜びそうな場所だな」
「確かに。向こうへ帰る前に、信玄様にはこっちの甘味をお土産に買って行こう、幸村」
「別にいいけど、あんまあの人に甘いもんばっか与えるなよ」
特別個人的に甘味に興味はないが、信玄の使いで割と頻繁に甘味処へ行っている幸村が、物珍しそうに店内を見回す。佐助がいつもの調子で淡々と勧めると、幸村は些か顔を顰めつつ、だが満更でもない様子で頷いてみせた。ちなみに一行は地味に大所帯な事もあり、掘り炬燵式となっている座敷席を二つ使用させてもらっている。