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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



「凪」
「あ、はい!」

くるりと背を向けた拍子、髪に挿した真白の芙蓉が抜け落ちた。恐らく、先程女性陣達から逃げた際にずれてしまったのだろう。磨き上げられた床の上へ落下したそれに気付き、凪が立ち止まって振り返る。落ちた芙蓉の簪を拾い上げようとした刹那、長くすらりとした指が花をすくい上げた。

「添え挿しか。留め挿しでなくて良かったな」
「兼続さん…ありがとうございます」
「そのまま動くな。大人しくしていろ」

白い芙蓉を持つ白い指先を辿れば、兼続が簪を拾ってくれた姿が視界に映り込む。簪が外れたにも関わらず、髪型が崩れていない様を見た兼続は、笑って礼を紡ぐ凪へ一歩近付き、それを持った手を凪の後頭部へ向けた。正面同士、向き合った状態で立った凪が、傍に寄った相手をちらりと見上げる。ふわりと鼻腔をくすぐったのは落ち着いた藤の香りだ。正面に立つ兼続を些か上目で見ていると、涼やかで理知的な眼差しとぶつかり合う。

「こら、上を向くな。挿し直せないだろう」
「ご、ごめんなさい」

絡まった二人の視線はすぐに解かれた。否、凪が軽く下を向く事で解かれる事となった黒々した猫目の代わりに、別の視線を感じる。金色の双眼が自らを映している事を悟り、兼続は静かにその眼差しを受け止めた。光秀の真意が見えない金色のそれが瞬きをすると同時、兼続が凪の髪へ芙蓉を挿し直す。髪型を崩さぬように気遣いつつ、彼女の艶黒の髪に真白な一輪を飾った彼は、そっと腕を静かに下ろした。

「次は気を付けろ」
「そうします。ありがとうございました」
「ああ」

短い声をかけた後、軽く下を向いていた凪が顔を上げる。やはり無防備に笑顔を浮かべて礼を告げた彼女へ相槌を打てば、今度こそ凪は光秀の元へと戻って行った。ふわふわと揺れる黒髪が、まるで猫の尻尾のようだなと感想を胸中で零した兼続を余所に、一連の出来事を見守っていた面々は、詰めていた息をそっと零す。

「おかしくない?何でこんなこっちが緊張しなきゃなんないわけ?」
「当の凪は全然気付いてないしね。まあ、あの子は鈍いから」
「信長様が見出された女を、敵国の軍師にくれてやるわけにはいかねえからな」

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