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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 仰せのままに



果たして何処で耳にしたものであったのか。それはすっかり忘れてしまったが、言葉だけは今でもしっかりと覚えている。凪が思い出した様子でぽつりと零したものを耳にし、光秀が相槌を打った。普段は目線が高いところにある彼の眸が、自分の前に跪いている体勢である為、低い位置にある。それがなんとなく新鮮に思えて、凪が面映そうに唇を綻ばせる。

「【いい靴を履くとその靴が素敵な場所に導いてくれる】。光秀さんが選んでくれた履物なら、私にとっては間違いなく素敵なものに違いないですし、この草履も私を素敵な場所へたくさん連れて行ってくれるのかなって」

フランスの言い伝えであるそれの意味するいい靴、とは何も値や見た目だけの事ではない筈だ。些細な事にも小さな縁があり、目に見えないそれが細い糸により結ばれる形で、自分との関わりが生まれる。草履の鼻緒が切れた時は不運だと多少なり気落ちもしたが、その結果新しい縁が結ばれた。物も、そして人も、それ等を繰り返して日々を生きていくのだろう。

「お前が望むのなら何処へ足を向けても構わないが、俺の傍からは離れてくれるなよ?」
「じゃあ一緒に素敵な場所へたくさん行きましょうね。そうすれば、何も心配要らないです」

片膝をついた体勢のまま、光秀が凪の片手を取って指先へと口付けた。唇が触れた箇所を反対の手で撫でながら上目に彼女を見ると、凪が華やかな笑顔を浮かべる。目映いそれを視界に入れ、双眸を眩しげに眇めた光秀が一度立ち上がって勘定を済ませると、再び凪へ振り返った。履き物も新調した事だし、そろそろ見世を出るのだろう。そう考えた彼女もまた腰を上げようとした瞬間、光秀が何故か今一度凪の前に膝をつく。

「あの……光秀さん……?」
「ん……?」
「一応訊くんですけど……なんで草履、脱がしてるんですか……?」

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