❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第12章 仰せのままに
「決まったか?」
「光秀さんだったら、どれが一番似合うって言ってくれるかなと思って」
本当はわざわざ問わなくても、凪が何を望んでいるのか知っているくせに。敢えてそこを口に出させるのが光秀という男だ。とはいえ、彼女もだいぶそれには慣れてるとあり、特に抵抗なく本心を明かす。そうすれば長い銀糸の睫毛に縁取られた瞼を伏せ、男が鈴を鳴らすような小さな笑いを零した。次いで真白な袴の裾を揺らして小上がりから腰を上げると、そのまま凪の前へ跪くように片膝をつく。
「……そうだな」
数足ある草履の中から、迷いなく光秀が一足を手に取った。それは白群色の鼻緒のものであり、凪が髪に飾っている水色桔梗の簪の色合いとよく似ている。
「ふふ」
光秀が選んでくれた草履を目にして、不意に凪が柔らかな笑いを零した。耳に心地良い柔らかな笑い声を拾い上げ、男が凪の片足へ草履を丁重に履かせる。確認し合わずとも、互いにどれを選ぶのかなどは明白だ。だからこそ光秀もこれでいいか、と彼女へ問う事はない。甲斐甲斐しくも両足へ草履を履かせてくれた光秀が、足袋に包まれた片足の甲を指先でひと撫でして顔を上げる。
「やはりこの色が一番お前に似合う」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
「履き心地はどうだ」
「ばっちりです。大きさもちょうどいいですし、直しは必要ないと思います」
「それは何より」
まるで最初から凪の為に誂えられたかの如く、光秀の選んだ草履は彼女の足にぴったりであった。手に取っていた片足をそっと地面へ下ろされ、凪が改めて彼によって履かせてもらった履き物を見る。よく見ると、白群色の鼻緒には桜の花びらの模様が薄っすらと刺繍されており、水色の生地も相まって、花びらが川面を流れていく様にも見て取れた。
「……そういえば、私の故郷からずっと離れた場所に、靴……じゃなくて履物に関する言い伝えみたいなものがあるんですよ」
「ほう……?」