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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 仰せのままに



戸惑いの声を凪が上げるのも無理はない。先程甲斐甲斐しく履かせてくれた草履を、光秀自らが脱がしているのだから。ぴったりと程よくはまっていた履物の感覚が失われ、再び足袋だけになった凪が困り顔で男を見上げると、光秀が至極当然とばかりに口角をゆるりと持ち上げる。

「今は必要ないからな」
「えっ」

少し前にも似たような科白を聞いた気がして、凪が虚を衝かれた声を漏らした。戸惑い半分、驚き半分、そして悪い予感半分。そんな心情がありありと窺える彼女を見やり、新しく買った草履を店主に包んでもらった光秀が、それを凪へ渡してやる。

「俺が見立てた履物を履いて喜ぶお前も愛らしいが」

言うや否や、凪の身体が軽々男によって横抱きにされる。もはや既視感しかない状況へ目を白黒させつつ、買ってもらった新しい草履の包みを条件反射で凪がぎゅっと抱きしめた。まったく危なげない様子で彼女を抱きかかえ、光秀が何処となく愉しげな面持ちで口端を持ち上げる。

「お前を望む場所へ連れて行く役目は恋仲である俺の特権だ。それをみすみす、下ろしたての新参者に譲るつもりはないな」
「下ろしたての新参者……」

それって草履の事?とはもはや愚問である。凪が先程口にした、言い伝えの事を言っているのだろう。胸の奥がきゅうっと甘く締め付けられる感覚に陥ってしまう辺り、自分もとことん光秀に夢中だ。恥ずかしい筈なのに、そんな風に言われてしまうと嫌とは言えない。むしろ、その独占欲にも似た感情を向けられる事に、喜びすら感じてしまう。

「さて、これから何処へ行きたい?何処へでもお前の望む場所へ連れて行ってやるとしよう」
「新しい草履を履いて逢瀬の続き……っていうのは、無しですか?」
「俺では役不足か?」
「………ずるい」

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