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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 仰せのままに



「……光秀さんは全然堪えてなさそうですけど」
「ああ、恥ずかしがって縮こまるお前を見るのは中々に楽しかった」
「それでずっとここに来るまで笑ってたんですね……!?」

そもそも光秀が他者の視線を気にする性質ではないとは分かっていたが、それにしたって随分生き生きしている、とは思っていたのだ。やはり自分をからかって遊んでいたと察し、凪が眦を軽く吊り上げた。むっと顰められた彼女の眉間を映し、喉の奥で低く笑いを零した光秀が片手で凪の頬をするりと撫でる。

「まあそう怒るな。……さて、ここに来た目的を果たすとしよう」
「今、話すり替えましたね?別にいいですけど……」

光秀のひんやりした指先で肌へ軽く触れられるだけで、あっという間に機嫌など直ってしまう凪が、些か物言いたげに眉根を寄せた。とは言っても、元々怒っているわけではない。恥ずかしいものは恥ずかしいが、どんな理由にせよ光秀が楽しそうにしてくれている様を見ると、何もかも許せてしまうのだ。結局のところ、そういう意味では凪も光秀に相当弱い。
程なく、光秀から話を聞いた見世の主人が何足かの草履を手にし、二人の元へ戻って来た。鼻緒の色がそれぞれ異なる草履はどれも靴底にあたる部分が藁で繊細に編まれていて、とても丁寧な職人の仕事振りが窺える。

「好きなものを選ぶといい」
「ありがとうございます!どれも可愛いなあ」

光秀に声をかけられ、凪が嬉しそうに口元を綻ばせた。履物の形が大体決まっている乱世において、足元のお洒落は草履の鼻緒に重点が置かれる。贅沢にも上質な反物などを用いている鼻緒はどれも可愛らしく、つい目移りしてしまう程だ。女郎花色や藤紫色、常磐緑に白群。女性用という事で、明るめの色合いを選んで出してくれた主人の見立ても中々のものである。

(……光秀さんなら、どれを選んでくれるかな)

自分の中でこれ、というものを一足選び、ちらりと隣に座る男を見た。そうすれば凪の意思をまるで汲んでいるかの如く口元へ仄かな笑みを乗せ、光秀が首を僅かに傾ける。

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