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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 仰せのままに



「そう気落ちする事でもない。このまま新しい草履を買いに行くとしよう」
「それは凄く助かりますけど……あの、光秀さん?」

草履の裏同士を合わせる形で重ね、光秀が袂へそれをしまい込んだ。さらりと事も無げに言われた言葉は今の凪にとって大変有り難い申し出だが、どうにも光秀の行動が気にかかる。足先が足袋だけになった所為で何処となく落ち着かない心地を抱きつつ、凪が男の名を呼んだ。そうすれば光秀は口元へ穏やかな笑みを浮かべつつ、やや確信的な雰囲気で首を傾げてみせる。

「ん……?」
「ん?じゃなくて、何で草履両方とも脱がしたんですか」
「どの道これはもう必要ないだろう」
「……じゃ、じゃあどうやって私、履物屋さんまで……」

にべもなく言い返した光秀に対し、何となく嫌な予感がして凪がたじろいだ。困り眉であったそれが別の意味でますます困窮の色を帯びると、男が実に愉しげな様で口角を持ち上げる。

「なに、簡単な事だ」

言うや否や、光秀が布擦れの音を立てて立ち上がった。そうして木箱に腰掛けていた凪の身体を軽々横抱きにすると、流れるような所作で手ぬぐいも回収する。半分予感していた展開に、凪が驚きと羞恥とが入り混じった声を上げた。

「ま、まさかこの格好で町中歩くつもりですか……!?」
「ほう?よく勘付いたな」
「誰だってこの状況になれば予想くらい出来ますよ……!!」

目線が一気に高くなり、すぐ傍で光秀の広く硬い胸板の感触を覚えた凪が、思わずといった調子で突っ込む。わざとらしく片眉を持ち上げて感心した素振りを見せた男が、危なげなくしっかりと両腕で凪の身体を支えた。手を繋いで隣を並び歩いていた時より、不可抗力ながらもいっそう距離感が近くなった事実に凪の頬が薄っすら染まる。

「いい子だから大人しくしている事だ。もっとも、お前を振り落とす事など万に一つも有り得ないが」
「うっ……これならいっそ足袋のまま歩いた方がましです……」

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