❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第12章 仰せのままに
短く問われ、凪が遅れて湧き上がった安堵を漏らすよう、そっと息をつく。光秀が素早く反応して先回りしてくれたお陰で転倒する事は免れたが、片足に感じる違和感に眉尻を下げ、凪が困った様子で視線を落とした。彼女の所作で単に障害物に躓いた訳では無いと察した光秀が、繋いでいた手を一度離して凪の肩を優しく抱きながら促す。
「一度道の端へ避けるとしよう」
「分かりました」
人通りの多い往来の真ん中で立ち往生していては迷惑がかかる上、余計に注目されてしまうだろう。それを避ける為にも、一旦邪魔にならない道端へ移動する事にした。
♢
道端に置かれている木箱の上へ手ぬぐいを敷き、光秀が凪をそこへ軽く腰掛けさせる。そうして自らはそのまま彼女の足元へ片膝をつきながら跪くと、片足を両手でそっと取った。
「鼻緒が切れているな」
「やっぱり……なんかそんな感触はしました……」
凪の足袋を履いた片足に引っ掛かっている草履の鼻緒が、ぷっつりと切れてしまっている様を認めて光秀が言う。躓く間際、何かが途切れるような感触を足先に感じていた彼女が、ある程度予想はついていたと言わんばかりに肩を落とした。淡い紫色の鼻緒が、無惨にもその役割を果たせない状態になっているのを目にして、困りきった様子で眉尻を下げる。
「どうしよう……」
「こう根本から切れていては、結び直しも難しいだろう」
「えっ、それは困ります……」
鼻緒は土踏まず辺りの根本から切れてしまっている為、結び直そうにも少々厄介だ。要するに完全に使い物にならなくなってしまった、と男から伝えられ、凪がますます消沈する。
(せっかくお互い頑張って勝ち取った久々の非番なのに……ついてないなあ)
まさか足袋だけで地面を歩き回る訳にもいくまい。先程まで逢瀬ですっかり浮かれていた気分が、一気に急降下した心地になって凪がそっと吐息を漏らした。そんな彼女の様子を見やり、光秀がふと壊れた草履と、無事であるもう片方の草履をそっと凪の足から抜き去る。