❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第12章 仰せのままに
光秀が彼女だけに行う特別な所作は、恋に恋する町娘達の憧れの的であり、様々な感情が混ざり合った眼差しが二人に刺さる。
「み、光秀さん……!」
元々人目を惹き付け、目立つ存在である恋仲の、まるで躊躇いのない所作に凪が羞恥混じりの声を上げる。その困ったような表情を目にして、光秀は愉しげに喉奥を低く鳴らしたのだった。
それからしばらく、二人はのんびりと城下町散策を楽しんでいた。特別目的地がなかったとしても、ただ手を繋ぎながら町中を歩いているだけで十分幸せに感じる。時折凪が、調薬室の常連である町人達に声をかけられ軽い世間話をしたりと、普段の日常より刻がゆるやか且つ和やかに流れている感覚を覚えて、彼女が嬉しそうにはにかむ。
「暖かくなって、やっと山にも入れるって町の人達も喜んでましたね」
「ああ、先程話していた者は山菜取りだと言っていたか」
「薬のお礼にってよく自分で採った山菜を差し入れしてくれるんですよ」
「ならば、今度こちらからも礼をしなければな」
「ふふ、そうですね」
春は山菜採りがいっそう盛んになる季節だ。ふきのとうの小さな芽が地を割って出始める頃には、山には多くの春特有の実りが見られる。光秀の言葉に笑顔で頷いた凪が、これから得られる多くの春の実りに思いを馳せていると、唐突に足元からふつりと小さな音が聞こえ、つんのめるようにして体勢を崩す。
「わっ……!?」
「凪っ」
ぐら、と前のめりに倒れ掛けた拍子、光秀が咄嗟に繋いだままであった腕を軽く引いて、反対の腕で抱き留める。前方から抱き締められる体勢になった凪が、縋るものを求めて男の白い着物を掴み、反射的に目を瞑った。嗅ぎ慣れた薫物の香りと、広く厚い胸板の感触にそろりと瞼を持ち上げた彼女が、目の前にある男の顔を冷や冷やした表情で見上げる。
「あ、ありがとうございます……」
「怪我はないな」
「平気です、光秀さんが転ぶ前に受け止めてくれたので」