• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 仰せのままに



暖を取る取らないはともかく、光秀と褥の中で身を寄せ合っていると心が安らいで安心する。本当は夏とて、暑くても割りとくっ付いている事が多い(というか光秀が抱き寄せてくる)のだが、明らかに遊んでいる風な男の問いへ素直に答えるのは何となく癪だ。

(こうやって毎度光秀さんの掌で転がされるんだよね……結局それも嫌じゃないんだけど)

ちら、と凪が光秀の横顔を一瞥し、心の中で零す。自分が出す答えなど、本当はすべて光秀にはお見通しに違いない。分かっていながら、敢えて凪からの答えを求めている男の、揶揄の更に奥へと秘めた甘い感情を見て取り、彼女が唇をきゅっと引き結ぶ。

「凪」

けれども、しっとりと潤った低い声で呼ばれてしまえば、凪の小さな自尊心や羞恥心など、あっという間に吹き飛ばされてしまう。答えを窮する、というより濁していた彼女が、やがて観念した様子でぽつりと零した。

「は、春は時々肌寒いし、秋も冬に近くなるとやっぱり寒いので……光秀さんにはお世話になるかも」
「夏も割りと触り心地は悪くないと思うがな」

(何だかその言い方、自分の事売り込んでるみたい。……可愛い)

確かに光秀の言う通り、体温が低い彼の身体はひんやりしていて夏場は心地良い。思わず口許が綻んでしまった凪が、隣で微笑する男を見上げて繋いだ手に自らそっと力を込める。

「それじゃあ、一年中光秀さんのお世話になる事になっちゃいますね」

冗談めいた風に笑う凪を見やり、男が互いの手が絡み合ったそれを軽く持ち上げた。そうして彼女の手の甲へ優しく口付けを落とした光秀が、甘やかな声で応える。

「俺としては願ったり叶ったりだ」

きゃあ、と色めいた町娘達の短い悲鳴が近くで幾つか上がり、凪の頬が桜色よりやや濃く染まる。この安土城下町で光秀と凪の関係を知らぬ者などもはや居ないと言っても過言ではないが、それ故に注目も受けるのだ。

/ 800ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp