❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第12章 仰せのままに
寒さが苦手な凪にとって、厳しい乱世の冬は実に苦難との戦いであった。主に服装についてだが。便利なヒーターや、防寒に優れたアウターがある訳ではないこの時代の暖を取る手段は、限りなく少ない。以前光忠に着膨れた雀発言をされて以降、地味に気にしていた凪がひっそりと嘆息する。
「おやおや、先程まで喜んでいたと思いきや、随分と物憂げな顔をしている。どうかしたか、凪」
「……あ、そこまで深い意味は無いんですけど、やっと暖かくなったなって思って」
凪の僅かな表情の変化を視界の端に認め、光秀が問うた。苦労の末にやっと勝ち取った逢瀬でまで、光秀に余計な心配はさせられまいと彼女が誤解を解く為に緩く首を振る。凪の返答にふと目元を綻ばせた男が、出掛けからずっと繋いでいる小さな彼女の手の甲へ、するりと親指の腹を這わせた。
「確かに、ようやくお前が寒さで震えずに済む季節になったらしい。俺としては少々残念だが」
「えっ!?光秀さん、もしかして冬が一番好きだったりするんですか?」
(い、意外だ……!でも夏って言われるよりは冬の方が似合うかも?完全に偏見だけど)
残念、と言いつつ肩を竦める相手の姿に、凪が驚きの声を上げた。もしやと思いつつ問いを投げ返し、深々と降る雪の中に立つ光秀の姿を想像する。白い着物と美しい銀糸が雪原に溶け込み、とても幻想的な光景である。冬の少しもの寂しい、けれども凛とした冷たい空気感は光秀によく似合う。凪が一瞬でそれ等の想像兼妄想を働かせていると、男がくつりと可笑しそうに口元へ笑みを滲ませる。
「ささやかなおつむで豊かな想像をしているところ済まないが、俺自身は然程季節に関心はない」
「えっ」
さらりと言ってのけた光秀に対し、凪が小さな声を上げた。ぱっと男を見上げて、今度は不思議そうに首を軽く傾げる。
「じゃあどうして残念なんですか?」
「さてな、どうしてだと思う」
「もう、私が訊いてるのに……」