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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第12章 仰せのままに





(ど、どうしてこんな事に……!?)

道行く人々の好奇と羨望、あるいは純粋な疑問を帯びた様々な視線に突き刺され、針のむしろ状態になった凪は、心の中で嘆きに近い声を上げた。果たして一体何故彼女がそんな事態へと追い込まれたのか。そもそもどんな状況に陥っているのか。事の発端は、数刻前に遡る────。

昼下がりの安土城下町。厳しい冬を乗り越え、すっかり春めいた陽気となった町の中心となる往来には、今日も多くの町人達が行き交っている。忙しなく日銭を稼ぐ者や家業の商いに勤しむ者、談笑や買い物を楽しむ者など、様々な人の営みが感じられるそこを光秀と二人、並び歩いていた凪が嬉しそうに隣に立つ男を見上げた。

「昨日の夕方頃、急に雨が降ったので心配でしたけど、今日は晴れて良かったですね」
「ああ、道もそこまで荒れていないようで何よりだ」

昨夜の夕方付近に軽く降った春の雨が、翌日まで降り続く事を懸念していたが、気まぐれな空模様は凪のささやかな願いを聞き入れてくれたらしい。夜の内に降り止んでいたのか、多少土で固められた地面は湿ってはいても、悪路と呼ぶ程の状態には至っていない。彼女の明るい表情を視界に映し、光秀が口元を穏やかに綻ばせた。

今日はかれこれ十日程前から、予定を互いにあけて約束していた城下町逢瀬の日である。途中、光秀に急な任務が入ったり、凪自身も調薬室の仕事が混み合ったりなどして一旦は流れかけたが、互いに何とか刻をやり繰りして獲得した貴重な非番なのだ。雨は自然の恵み。降らなければ作物は育たず、人も土地も枯れてしまう、大切なものだと分かってはいても、逢瀬の時は晴れやかな天候でいて欲しいと願うのは当然の事である。

久々の逢瀬だからと気合いを入れてメイクや髪を整え、お気に入りの小袖へと袖を通した凪が、裾の泥はねを気にせずに済んで良かったと内心安堵するのもまた、当然というものだ。

(薄手の羽織着て来るか迷ったけど、この暖かさなら着て来なくて正解だったなあ。やっと着膨れしなくて済む季節になった……)

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