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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 永劫の花



「つまり、お前のすべてが俺にとっての慈雨になるという事か」
「そ、そんな大袈裟な話じゃないですけど……光秀さんを何度でも綺麗に咲かせる為に、お手入れは毎日欠かしませんよ!」
「頼もしい事だな」

頬や唇、華奢な首筋に柔らかな身体、小さな膝やしなやかな脚。ゆっくりと確かめるように這わせた手のひらが、最後に小さな爪先を撫でた。髪の一筋から足先まで、凪という存在そのものが光秀を潤わせる。何度枯れてもまた凪の手で慈しみ育まれるのならばそれも悪くはないと、らしくもなくそう思った。
愛しい手で触れられ、惜しみない愛を受けて花開く。これ程までに幸福な永劫回帰など、きっと他にはあるまい。少なくとも、光秀にとっては。

「ならば、早速だがお前に頼みたい事がある」
「ふふ、なんですか?」

桜貝のような足先の小さな爪をひと撫でした後、光秀が凪へ声をかけた。柔らかく穏やかな笑みを浮かべたまま、彼女が首を小さく傾げて見せる。
満たされてもまた更に、更にと欲してしまうこの身の世話は、さぞかし難儀だろう。それでも永劫の花は幾度も彼女を求め、彼女の為に咲き誇る。
小首を傾げた凪の顎を指先ですくい、光秀が顔を寄せた。互いの吐息が交わる程の距離感で、甘く囁きかける。

「喉が乾いて仕方ない。この愛らしい唇で、水を注いではくれないか?」
「勿論です。その代わり……他のどんな花より、綺麗に咲いてくださいね」
「それはお前次第だな」

例えば、この身が愛しい者の手で咲く花だったならば。そんなありもしない冗談を交わし合う夜の、何と心地よく幸福な事か。
欲しがりな月下に咲く真白な花は、唯一無二たる愛しい慈雨を求めて瞼を伏せる。その瞬間、凪が光秀の唇を自らそっと塞いだ。二人の影が重なり合い、やがてひとつに溶けゆく様を、見事に咲いた月下美人だけが優しく見守っていたのだった。




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