❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第11章 永劫の花
凛と咲き誇る様は一切の穢れを知らないようで、けれど夜の闇の中で必死に息づこうとしている。その健気な様は、まさに【強い意思】の表れだ。習慣や文化も、すべてが異なるこの乱世に残ると決めた彼女こそ、真白なあの花に例えられるに相応しい。
「俺には【ただ一度だけ】と言い切る事は出来ない」
愛を注ぎ、注がれる事を知ってしまったこの身は、貪欲にも凪から注がれる水を欲しがる。同時に、溢れんばかりの水を彼女へ与えたがる。到底ただ一度だけ、などと殊勝な事を言えるような男ではない。
何処となく苦笑めいた表情で光秀が伝えると、凪は驚いた様子で幾度か大きな双眸を瞬かせ、やがて月下美人と同じくらい、あるいはそれ以上に美しく、愛らしく笑う。
「月下美人は確かに一晩だけしか咲けないですけど、ちゃんと休ませたり、お手入れをしてあげれば年に二回は花を咲かせてくれるんですよ。それに萎んだ花は今度は実になって、新しい花を咲かせる為の種になります。大変だったり、辛い事もあるかもしれないけど、花が咲く度、全部吹き飛ばされちゃうくらい、私は幸せな気持ちになります」
「凪」
「どれだけ会えない時間が募っても、必ず私のところに帰って来てくれるから……そういうところが光秀さんと一緒だと思ったんです。【ただ一度だけ会いたくて】は、えーと多分……忙しい合間に光秀さんが作ってくれる逢瀬の時間、とか?」
どんなに美しい花でもいつかは枯れて種子となり、次に芽吹く命の礎となる。花にとっては至極当たり前な自然の摂理だ。
「確かに、その発想はなかったな」
【ただ一度だけ】を束の間の逢瀬と解釈した凪の言葉へ、光秀が可笑しそうにくつくつと喉を鳴らす。化け狐と呼ばれるこの身を、ああも懸命に咲く花に例える者など、後にも先にも凪だけだろう。やがてひとしきり笑った後、光秀が輪郭をなぞっていた指先を、ゆっくりと彼女の身体へ這わせていった。