❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第11章 永劫の花
「いつ頃咲くのかな。出来れば光秀さんが視察のお仕事へ行く前に咲いてね、みつひでさん」
「やれやれ、花にまで俺の都合へ付き合わせる訳にもいかないだろう」
「そんな事ないです。みつひでさんも光秀さんに見て欲しいって思ってますよ」
幸いと言うべきか、急務でもない限りここ最近は視察の予定もない。そこまで楽しみにしている凪の為にも、開花の際には出来る限り立ち会いたいものだ、と内心で零した。しかしその感情を表に出す事はなく、無邪気な凪の言葉へ瞼を伏せ、口元を綻ばせる。
「……どちらの俺か、花も戸惑ってしまいそうだな」
「ふふ、毎日の事なのできっと分かってくれます。あと、植物もたくさん言葉をかけてあげたり、名前をつけて愛情を注いであげると成長の度合いが違うんですよ」
「ほう……?言霊という事か」
「そうかもしれません」
人が発する言葉には、目に見えない力が宿っているという。生憎と神仏の類いを信じてはいない光秀だが、少なくとも弁を操るものとして、言葉の力というものの肝要さは重々承知しているつもりだ。
良い言葉は投げかけられた相手へ良い事を、悪い言葉は投げかけられた相手へ悪い事を。それは無論他者だけでなく、己自身へも巡り巡って戻ってくる。
人を騙し、欺きながら生きて来た光秀がこれまで放って来た言葉は、いつかおそらくこの身を地獄へ突き落とすだろう。当然、その覚悟をもってこれまで暗い道を一人歩み、生きて来た。だが……───。
(お前はそれを良しとはしないのだろうな)
落ちていくこの身を繋ぎ止める為、凪は決して諦めはしない筈だ。自惚れなどではなく、そういう娘だと、彼女と共に過ごす日々の中で知った。故に、光秀はその想いへ応える為、凪が注いでくれる以上の愛を彼女へ返す。
「凪」
「?はい」
「俺もその花の蕾へ名付けてもいいか」
「勿論です!なんて名付けます?ちまきとか?」
「それも悪くはないが」