❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第11章 永劫の花
おもむろに立ち上がり、庭先へ下りている彼女に倣って草履を足へ引っ掛けた。凪が屈み込むその隣へ片膝をつき、蕾のひとつを指でそっと触れる。
「【凪】、とそう名付ける事にしよう」
「!」
溢れんばかりに眸を瞠った彼女を見つめ、光秀が笑みを深めた。丸々とした双眸には、愉しげな表情を浮かべる光秀自身の姿が映し出されている。凪が丹精込めて育てた蕾を傷つけないよう、光秀が丸く膨らんだ表面をするりと撫でた。しっとりとして瑞々しいそれは、何処か彼女の滑らかな肌に通ずるものがある。
「さて、名付けたからには俺も【凪】を愛でてやらなければな」
「あ、あの……!名前別のに変えません!?やっぱりちまきの方が可愛いと思うんですけどっ」
「生憎とこの名がしっくりと来ている。花も名を何度も変えられては困るだろう」
「ええ……っ」
焦燥する凪の話を見事に逸らし、光秀が口角を持ち上げる。変える気は毛頭ない、という男の意思でも伝わったのか、彼女が困り眉のままでそっと肩を落とした。宥めるよう蕾へ触れていない方の手で頬をひと撫でした後、光秀が鉢植えへ視線を流す。
「凪、お前はいつ見ても愛らしいな」
「!!」
すぐ傍で凪が短く息を呑んだ音が聞こえて来る。視界の端に映る彼女の頬がほんのりと淡い色に染まる様が、今し方口にした通り【愛らしい】。
「この硬く閉ざした蕾を開き、お前がどのような花を開かせるのか待ち遠しくすら思う」
「う……」
「俺だけに綻ぶ姿を見せてくれ」
「っ………」
光秀が言葉をひとつ重ねる度、凪の頬がじわじわと熱を帯びていった。最初こそぐっと唇を噛み締めて耐えていたらしい彼女に向かい、駄目押しとばかりに男が更に甘やかな音を紡ぐ。
「凪、愛している」
「光秀さん……!!」
限界値を越えたらしい彼女が、羞恥で幾分上擦った声を上げた。くつくつ、と喉奥を鳴らしながら光秀が凪へ視線を向けると、明らかに不服と言わんばかりの眼差しが飛んで来る。