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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 永劫の花



「光秀さん!見てください、もうすぐ咲きそうですよ……!」
「確かに、昨日よりだいぶ育ったようだ。水やりをするならば手伝うが」
「この前たっぷりあげたから、まだ大丈夫です。土も乾ききってる訳じゃないですし」

ぱっと室内にいる光秀を振り返った凪の表情には、月下美人より先に見事な花が咲いている。開花を待ちわびる姿は無邪気な子供のようで、その屈託のなさが光秀にはとても尊く、愛おしいものに映った。
書きかけの書簡をそのままにし、一度筆を置く。そうして凪がいる方へ足を向けた光秀が、縁側の張り出しへ胡座をかいた。
一株のみ献上された月下美人はしかし、複数の蕾を有している。そのいずれもが下向きに垂れ下がった状態で、光秀にはどのような花が咲くのかまるで見当もつかない。

「みつひでさん、頑張って綺麗に咲いてね」
「相変わらずその花の名は俺なのか」

日頃よく耳にするに加え、鉢植えが来てからは更にその頻度が増した名を拾い上げる。凪の視線は光秀の方へ向けられてはおらず、熱心にまだ花綻ばぬ月下美人へ注がれていた。肩をゆるりと竦めた男へ振り返り、そんな凪が笑いかけてくる。

「はい、月下美人は私の中で光秀さんっぽい花って印象ですし」
「俺を花に例えるとは、相変わらず変わった娘だ」
「お墨付きって事で、楽しみにしててくださいね」

凪の中で、今懸命に育てている月下美人の名は【みつひで】になっているらしい。明智光秀という男を人以外のもので形容する時、大抵の者は化け狐と時には畏怖し、時には侮る。そんな自身にまだ見ぬ花のようだと告げて来る彼女は、日ノ本広しと言えどそこそこ数奇な娘と評される事だろう。
水無月の中旬に入ろうという頃。空に浮かぶ太陽が燦々とした熱を地へ注ぎ、真夏とまではいかないが、それなりに汗ばむ気温になって来た。そんな容赦のない陽射しが凪の黒髪を照らし、艶をいっそう深めさせる。
夏が嫌いではない、と自ら豪語する彼女は、明るい陽の元で今日も蕾を閉ざした花に向かい、言葉を捧げていた。

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