❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第11章 永劫の花
興味がないのだから当然と言えば当然だが、彼女が自分にもそれを体感させたいと思うその気持は、純粋に喜ばしいと思う。
「俺に見せようとしてくれる事は嬉しいが、信長様へ先にお見せしなくていいのか?」
「勿論花をくれたのは信長様ですし、出来る事ならそうしたいんですけど……」
「ん……?」
信長にも特別花を愛でる趣味はないだろうが、下賜されたものならば主君に見せるが道理、と光秀が柔らかな口調で促すと、凪が困り顔で眉尻を下げた。歯切れの悪い口振りに何事か問題があるらしいと察しつつ、光秀が相槌を打つ。視線を月下美人の鉢植えへ一度向けた凪が、改めて光秀へ向き直りながら、信長へ見せる事が叶わないだろう理由を告げた。
「月下美人は、一晩しか咲かないんです」
♢
光秀と凪が共に暮らす部屋から望む事が出来る庭先、そこに月下美人の鉢植えは置かれた。日当たりを好む性質を持つらしい花にとって、光秀の家臣達が日頃整えている広々した庭先は、絶好の場所なのだと凪が笑顔で告げていた。陽射しが強すぎる日は日陰に移動させるなど、細やかな気遣いが必要だという花は、光秀が文机前に座っていてもよく見える。
(だいぶ蕾が膨らんで来たらしい)
何気なしに視線を庭先へ向け、凪に下賜された時より膨らみを帯びた蕾の存在を視界に入れた。花の生育過程を観察するなど、光秀にとってかつて無い事である。とはいえ、観察といっても特別近くで眺める事はない。あくまで文机前に座した雑務の合間、ふと顔を上げた際に映り込んだものを記憶しているだけに過ぎない。
「わあ!蕾、大きくなって来た!」
不意に光秀の鼓膜に明るく弾んだ声が届けられる。その声の主を今更探るまでもない。続きの間の自室から姿を見せた凪は、表情を嬉しそうに綻ばせて縁側へ向かい、草履を両足に引っ掛けて庭先へ下りた。葉や土の具合を見る為、鉢植えの傍へ屈み込む彼女の姿は、もはやここ最近では日常の一部と化している。