❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
一行は兼続と幸村と思わしき人物を連れ、彼等を囲んでいた女性陣から脱兎の如く逃げた。そうして現場から少し離れた路地へ入り込み、状況を確認するべくしてひとまず呼吸を整える事となったのだった。はあ、と肩で大きく息をする凪の背を、息ひとつ乱れていない光秀が大きな掌で擦る。言いながらも、何処となく可笑しそうな様は状況を愉しんでいる者のそれであった。面々に置いていかれないよう必死に走っていた彼方は、嘗て移動が徒歩と馬だけであった事実をこれ以上ない程に痛感し、現代の文明の利器に頼り過ぎた生活はいかんなと認識を改める。つまり、何が言いたいかというと、武将の体力は半端ない。
「それで、一体どういう事だ佐助。何故越後の執政官に、武田の腹心と顔見知りなんだ。お前はただの流しの行商人なんじゃないのか」
「ぎくり」
念の為改めて伝えておくが、秀吉と三成は佐助が軒猿の一員であるという事実を知らない。ただの行商人であり、凪の友人という設定で通している。そんな佐助が、幸村と兼続、二人の知り合いだとバレてしまえば、色々と面倒な事になる。ぎくりと口にしている割に、まったく表情に変化がない事へ感心を通り越して感動を覚えている凪が、ふと光秀を見上げた。片手で男がまとう浴衣の袖を密かにくい、と引っ張り、助けを求める。そんな凪の視線を受け、光秀が微かに口角を持ち上げた。疑わしそうな眼差しを向ける秀吉に向かい、おもむろに光秀が口を開く。
「まあ落ち着け秀吉。流しの行商ともなれば、安土だけでなく様々な土地へ商売に向かうだろう。当然かの軍神の膝下、越後も例外ではない。兼続殿は内外の政治を司る立場にある。城下の見廻りも役目の内。顔を合わせていても何らおかしくはない」
「確かにそれはそうだが……なら、真田に関してはどうなんだ」
「幸村殿に至っては、よく信玄殿の使いで甘味処に通っているらしいからな。行商として町で商売をしている内、親しくなったんだろう」
(さすが光秀さん…!)
つらつらと一切の澱みなく並べ立てられる嘘八百には圧巻の一言である。ぐっと押し黙った秀吉を相手に、光秀は悠然とした笑みを浮かべた。