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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 永劫の花




珍しいものを信長様から頂いた。そう言って花のような笑顔を咲かせた凪を、光秀はいつものように眩しげな眼差しで見つめつつ、そうかと応えた。
安土城から家臣達が丁重に運んで来たそれは、真っ白な陶器の花瓶のようなものだった。花瓶のような、と形容したのは、光秀が知るそれとは少々形状が異なっていたからに他ならない。花瓶の下には同じ色の受け皿のようなものが敷かれており、一見すれば壺とも見紛えてしまうその中には土がぎっしりと敷き詰められている。

「月下美人っていうお花なんですよ」
「聞いた事のない花の名だな」
「元々は凄く遠い外つ国(とつくに)の、暖かくて雨が多い場所で生えてる植物なんですけど、南蛮の使者の人達が信長様への献上品にって持って来たらしくて」
「ほう……?道理で日ノ本の植物とは違った形をしている訳だ」
「庭師の人達も初めて見る花なので、手入れとかお世話が上手く出来ないらしくて。かと言って、せっかく頂いた花を枯らす訳にもいかないからって」
「それでお前の元へやって来たという事か」
「そんな感じです」

事実上、信長から下賜(かし)された形となる月下美人という異国の花は、未だ蕾を綻ばせていない状態だ。花瓶のようなもの───凪曰く、鉢植え代わりのそこからは、瑞々しさを感じさせる青々した茎や葉が伸びている。地面に置いてみると茎は子供の背丈より幾分高く、その周囲には細く切った竹で添え木がされていた。

「せっかく頂いたからにはしっかり咲かせてあげなきゃ……!」
「随分と意気込んでいるようだな」
「はい!だってこのお花、咲いた時すっごくいい香りがするんですよ!光秀さんにも開花の瞬間、見せてあげたいなあ」

気合い十分とばかりに言い切る彼女の様子を見て、光秀が口元に自然と笑みを乗せる。花を愛でる趣味のない光秀にはあまり理解こそ出来ない事だが、凪がそれをやりたいと言うのならば自然と関心も向く。思えば光秀自身、これまで生きて来た中でまじまじと花の開花を見た事などなかった。

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