❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第10章 どちらかと言えばサバイバル
「あ、コシアブラだ!タンパク質が豊富で美味しいんですよ。炒めても美味しいし、おひたしも美味しいし……とにかく色んな料理に使えます」
「欲しいのか?」
「採りたいです。でも……ちょっと高いですね」
山菜の女王とも呼ばれる春の味覚を見つけ、凪が嬉しそうな声を上げる。食に関心がまるでない光秀にとっては、どのような調理法でも腹に入れば皆同じだが、凪が楽しそうな様を見るのは悪くない。コシアブラはやや傾斜の強い側面に生えており、凪が些か残念そうに眉尻を下げた。その様を見やり、光秀が彼女の頭を軽くぽん、と撫でて手を離す。
「ここで待っていろ」
「えっ!?光秀さん……!?」
傾斜へ根を張る木の枝を掴み、滑りやすい草履である事もまったく気にした風もなく、光秀が斜面をたんたん、と軽々登って行った。そうして目的のものを幾つか採取すると、手拭いを広げてそこに収めて包み、再び凪の元へ戻る。ぽかん、とした様子で目を丸くしていた彼女の前へ膨らんだ状態の手拭いを差し出すと、凪が両手でそれを受け取った。
「ご所望の品だ。これだけあれば、今宵の夕餉には足りるだろう」
「あ、ありがとうございます……光秀さんってなんかこう……凄いですね」
「この程度、どうという事もない。それより」
今宵は元々山を抜けた先にある麓の村で一泊の予定だ。宿の者に調理を任せるというより、凪は自ら支度をしたがるだろう。見越した上で声をかけると、彼女は次第に驚きよりも喜びが勝ったような表情で笑顔を浮かべ、感嘆の言葉をかけて来た。山間に潜む事の多い光秀にとって、このくらいは造作もない。薄く笑みを浮かべた男が肩をゆるりと竦めて見せた後、片手を彼女の頬へあてがった。敢えて言葉を一度切り、身を軽く屈めながら視線を合わせ、凪の眸を上から覗き込む。
「働きに見合った褒美をひとつ、もらい受けたいんだが」
「!」