❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第10章 どちらかと言えばサバイバル
乱世の地図は当然ながら、すべて人の手によって描かれたものだ。どれ程の道幅かなど、そんな詳細な情報が記載されている筈もない。これといって気にした風もない凪を見て、光秀が軽く眸を瞬かせた後、薄い瞼を伏せて微笑する。
「普通の姫ならば、こんな森の中で立ち往生など耐えられないと癇癪を起こしてもおかしくないくらいだが、まったくお前は逞しいな」
「だって春から夏にかけての山なんて薬草と山菜の宝庫ですよ!むしろ楽しいです。……あ、そうだ、光秀さん」
「ん?」
やや興奮した様子で楽しげに笑った凪が、ふと何事かを思いついた様子で光秀へ声をかけた。伏せていた瞼を緩慢に持ち上げ、男が涼やかな眸を彼女に向けて流す。短いながらも甘やかな相槌に促され、凪が眸を輝かせながらねだるように光秀の白い着物の袖をくいっと引いた。
「時間があるなら、少し散策しませんか?」
♢
凪に誘われるまま、光秀は一団が休んでいる場所から少しばかり進んだ先まで散策に訪れた。あちこちに見て取れる春の息吹を目の当たりにし、嬉しそうに面持ちを綻ばせる連れ合いの姿を視界に入れ、男が知らずと目元を穏やかに綻ばせる。
「凪、はしゃぎ過ぎて転ばないよう気をつける事だ」
「そんな子供じゃないですし、山歩きは慣れてますから」
「ほう?それはそれは……先日木の根に躓きそうになっていたのは、誰だったか」
光秀の物言いに、些かむっとした調子で凪が眉間を寄せた。そんな彼女を見やり、口角を持ち上げて意地の悪い視線を流すと、隣であからさまに凪がうっと言葉を詰まらせる。
「あ、あれはちょっと足元がよく見えなくて……」
「お前の肌に傷がつく事は俺としても耐えられない。大人しく繋いでおくといい」
「うう……分かりました」
彼女を案じるような事を言いながら、実際は少しでも凪に触れていたいという自らの本心をそこに潜め、光秀が華奢な手を繋ぐ。