❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
豆まきをしない、という選択肢を提示した光臣のそれへ、ふと光鴇がしょぼん、と眉尻を下げた。子供にとっては些細な季節行事ひとつでも楽しい思い出には違いない。心なし小さな肩を落とした幼子の頬を人差し指でつん、と軽く突付くと、光鴇はすぐにはっとした表情で首を振る。
「と、とき、まめまかない!」
「でも鴇くん、朝から今日は豆まきだーって楽しみにしてたし……」
学問所で聞いて来たらしい顕如の話がやはり心に残っているのか、光鴇は頑なであった。凪としては、何とか子供が楽しみにしていた事をさせてやりたい、という気持ちもある。幼子の心を晴れさせ、尚且つ楽しく豆まき出来る手はないものか。そんな事を考えながら首を捻っていると、光秀が事も無げに言う。
「そう難しく考える程でもない。掛け声を変えればいいだけの事だ」
「どういう事ですか?父上」
「外ではなく、内とでも言えばいい。そうすれば少なくとも岩戸の神とやらを追いやる事にはならないだろう」
「なるほど……言い得て妙というか、上手い具合に誤魔化す感じですね」
外が駄目ならば内で、というのは中々に安直だが、反対になるだけでだいぶ意味合いが変わって来るというものだ。光臣が苦笑しつつ頷けば、光鴇も眸をきらきらと輝かせながら両手を上げる。
「おにはうち!」
「……あ!じゃあ私も、そういう感じでいいなら思いつきました!」
はっとした様子で凪が表情を明るくさせると、おもむろに立ち上がった。ちょっと待っててね、と声をかけて一度何処かへ立ち去り、程なくしてすぐに部屋へ戻って来る。凪の手には二人分の枡があり、それを光臣と光鴇、それぞれへ渡した。受け取った二人が枡の中を見ると、不思議そうに目を瞬かせる。
「母上、これは一体……」
「まるくてしろいつぶつぶ。これ、たべれる?」
「ほう?これは……」
光鴇の手にある枡の中身を、光秀も背後から覗き込んだ。枡の中に入っていたのは煎り豆ではなく、白くて丸い何かだった。一見すると小さな白玉に見えなくもないそれを自身も見て、凪が面持ちを綻ばせる。