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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「……もしかして鬼は外って豆まきするの、神様岩戸から出て来るな!って意味だったり……?」
「さもありなん、といったところだな」
「うわあああん!かみさま、かわいそう!おそとでれない、かなしい!」

凪が恐る恐る言うと、光秀は至極当然と言わんばかりにしれっと応えた。途端、父の胡座の中へ収まりながら幼子が声を上げて泣き出す。自身が山賊達の倉庫───岩戸へ閉じ込められていた事を思い出しでもしたのだろう。

暗くて怖くて心細い場所へたった一人きり。それを思うと小さな胸がしくしくと痛みを覚えた。これまで、当たり前の決まり文句のようなものだとばかり思っていた【鬼は外、福は内】。しかしそこに自分達が知る由もなかった深い意味が隠されていると知り、光臣も目を瞠る。

「伝承の通りだとすれば、何故そんな酷い言葉にすり替わってしまったのでしょう」
「なに、歴史や伝承は常に権力者達によって編纂(へんさん)されている。上の者が当然の如く行っているものが民の常識となり、やがて風習になっていくという事だ」
「……何だかそれってかなりずるいですよね。本当の事を隠して自分達に都合のいい事ばっかり」
「戦の謀(はかりごと)と同じだな。流言(るげん)も信じる者が多ければその分、事が優位に運ぶだろう?」

認識、常識、慣習とはそもそも誰かが作ったものだ。ひとつひとつの事柄へ心を置き、すべての起源を正しく知る事が肝要なのだという事実は、戦も日常生活も変わらない、という事なのだろう。

「確かにそうかもしれません……では、今年の豆まきはどうしますか?やらないというのもある種の選択かと思いますが……」
「まめまき……」
「掛け声はともかく、どうやら鴇は豆をまきたいらしい」

色々と知ってしまった後、いつもの調子で豆まきをするのはどうにも憚(はば)かられた。毎年家族が揃ってから御殿中に豆を兄弟でまくのが習わしとなっていたが、気が進まないのも事実である。

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