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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



もういっそ安土にも仮住まいを整えた方がいいのでは、という頻度で顔を出している。光秀と光臣、そして凪がそれぞれ思い思いの事を口にする中、光鴇は一人慌てた風に父の傍へやって来て、くいっと軽く袖を引いた。何やら幼子にとっては只事では無さそうな様子を見て取り、光秀が筆を静かに置く。

「どうした、仔栗鼠」
「ちちうえ、まめまきおにはそと、めっだよ!」
「ほう?顕如殿から何か聞いたか」
「うん、けんにょさま、おはなししてくれた」

光鴇がこうも焦っているという事は、公開手習いの折と同じく、何か伝承でも聞いたのだろう。幼子の思考と行動など暴くのは容易い。案の定、光鴇は真剣な面持ちで頷き、そうして我が物顔で父の胡座の中へすっぽりと収まる。

「こら鴇、父上は今御公務中だぞ」
「むっ……とき、おひざすき」

兄の指摘に、口をへの字にした幼子がむっすりとしたまま不服を露わにした。そんな光鴇を大きな掌で宥(なだ)めた光秀が、先程から口にしている内容を確認すべく問う。

「それで鴇、何故鬼は外は駄目なんだ」
「あのね、とじこめられたかみさま、かわいそう。おに、かみさまといっしょ!」

今度は伝承の内容にでもぷりぷりと憤っているのか、不満げな光鴇が身振り手振りで必死に説明した。凪も光臣の傍へ座ると子供の話へ耳を傾け、ふと思い出した様子で首を捻る。

「そういえば、公開手習いの時に聞いた豆まきの伝承が起源だとしたら、豆を投げつけられたのは岩戸へ閉じ込められた神様って事になるよね?」
「はい、厳格で自他へ厳しい神だったという事ですし、その神を鬼と便宜上呼ぶのも辻褄が合う気がします」
「となると、鬼は外の掛け声が何故作られたかという事実の裏も、おのずと透けて来るというものだ」
「おにはそと、めっ!」

光秀は既に話の内容を把握しているのか、長い銀糸の睫毛を伏せて小さくくすりと笑いを零した。未だ光鴇が頬を膨らませて怒っている理由も分かる気がする。

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