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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



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───【童の岩戸隠し】からしばらくの後、立春の節分。

一般的に節分、豆まきの日と呼ばれる日。今日は登城せず、御殿内で雑務などの処理を行っていた光秀の耳に、もはや日常と言っても過言ではない幼子の騒々しい足音が廊下から届けられる。尚、立春の節分という事で新兵稽古が休みとなった光臣は、父の傍で書き物の手伝いをしていた。

書き終えた紙を別所へ移しては乾かし、乾いたものは綺麗に折って九兵衛へ使いとして渡すなどの作業を行っている途中、少年はふと顔を上げて襖の方を見る。

「もうそろそろここへ来そうですね。念の為、文を移動させておきます」
「ああ、その方がいいだろう。紙を踏んで滑りでもしたら事だ」

書き物中の筆を動かす手は止めぬまま、光秀が鷹揚に応えた。したためた文が破れる事より、光鴇が滑って転ぶ事を懸念している辺り、父らしいというべきか。動かせるものから順次移動させ、大方襖付近から紙を遠ざけたところで、いつも通り光秀の自室の襖がすぱん!!と開かれる。

「たいへん!!おにはそと、めっ!!」

今日は凪が学問所へ迎えに行ったらしく、帰宅したその足でどうやら幼子はここまでやって来たようだ。何やら酷く血相を変えている幼子の様子へ光秀と光臣が眸を瞠ると、後から部屋へ入って来た凪が、苦笑を浮かべる。

「実は今日も、顕如さんが住職さんの代わりに子供達へ色々教えてくれていたみたいで」
「住職殿も、何やら味を占めたらしいな」
「確か先日も休まれて、顕如様へ子供達の手習いを頼んで来たと蘭丸さんから聞きました」
「やっぱり武家の子供達を相手にしてると、色々ストレス……じゃなくて気疲れするのかもですね……」

公開手習いの折も然り、ここ最近は何かと住職が他の寺へ指南役の応援を頼む事が増えて来たようだ。そしてもっとも頼りにされているのが、わざわざ大阪の天満(てんま)から安土までやって来ている顕如であった。

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