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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



何より、誰かに必要とされているという事実が純粋に嬉しい。両手でぐっと力強い拳を握り、褥からそっと出た八重は、痛む身体を引きずるようにして畳の上へ正座した。そうして腹部の痛みに耐えつつも光秀に向けて平伏の姿勢を取る。

「………俺、御役に立ちます。この御恩に報いる為にも、必ず」

集落で生きていく道もあった。御殿勤めとて、そう楽なものではない。子供が大人へ技術を教えるという事に、不快感を露わにする者も中にはいるかもしれない。いずれにせよ、どちらも決して楽な道ではないのだ。倉庫へ閉じ込められている最中、八重は一度も涙を流さなかった。帰りたいと泣く他の子供達とは違い、自分自身に帰る場所はなかったから。誰も自分の名を呼ばず、誰も自分を心配する事はない。故に────諦めていた。

───とき、ほんき。まめにはな、さかなくても、みんなのとこかえる。

真っ直ぐ澄んだ眸をした光鴇の、勇気に心を震わされるまでは。小さな身体で自分に出来る事をしようとするその様は、とても生き生きとして見えた。諦めないというたったひとつの感情だけでここまで輝けるなんて、凄いと純粋に思ったのだ。

「やえ、これからいっしょ、くらす?」
「ああ、お前もよく気にかけてやるといい。いずれ家臣にするのだろう?」
「うん……!!」

笑顔で大きく頷いた光鴇を見て、八重も小さく口元を綻ばせた。どうやら自分はいずれ、この小さな子供を主と仰ぐ事になるらしい。普通ならば何を馬鹿なと言いそうなものだというのに、何故か八重にはそれがひどく誇らしく、そして光栄な事のように思えたのだった。

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