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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



まだ数え歳十二の子供が一人で生きていくのは生易しい事ではなく、凪がそっと表情を曇らせる。仏門に帰依すれば、養父から学んだ罠師としての腕を発揮出来ない。その時点で、八重の心はふたつ目の提案へ傾いているかのようであった。黙り込んでいる少年を見つめ、やがて光秀が最後の提案を口にする。

「そして最後の提案が────俺の御殿勤めになる事だ」
「………えっ!!!?」
「御殿勤め、ですか……!?」

言い切った光秀のそれに、八重が一瞬何を言われたのか理解出来ず呆然とした。やがて我に返った様子で短く声を上げると同時、光臣の声と被る。凪もまた予想外過ぎる展開に目を瞠り、隣にいる光秀を見つめた。光鴇だけはいまいち内容を理解していないのか、不思議そうな顔をした後で取り敢えず自分も話を合わせようと驚いた風を装っている。

「あ、あの……それは一体どういう……」
「言葉通りだ。例の山賊の根城で一人、縄で梁(はり)に吊るされた男がいたが……あれを仕掛けたのはお前だろう、八重」
「そうです。皆が縄になる材料を探してくれたので、それで麻縄を編んで……猪や鹿なんかを獲る時に使う、くくり罠を応用したものです」
「獣だけでなく、人も罠にかけるとは中々に機転が利く」

(あ、ちょっと悪い顔してる……)

要するに光秀は八重の罠師としての腕を買ったという事なのだろう。涼やかな双眸を眇めて薄く口角を持ち上げる様は、何か夫が企み事をしている時の表情だ。凪が内心で苦笑しているその横で、光鴇が兄の着物の袖をくいっと軽く引っ張る。

「あにうえ、ごてんづとめってなに?」
「御殿に家臣や下働き達がいるだろう?ああいった者達のように、御殿で働く役目をもらう事だ」
「!!」

光臣の説明を耳にした光鴇が、ぱっと表情を輝かせた。御殿勤めの者は、通いの者もいるが泊まり込みの者も比較的多い。御殿勤めになれば、八重と一緒にいられる。そう考えた光鴇が立ち上がって父の元へ駆けて行く。

「ちちうえ!ときのかしん、やえがいい!!」
「は!!!?」

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