❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「そこで、三つ程選択肢を用意した。他の小さな童(わっぱ)と違い、お前は歳も臣とそう変わらない。己の道は己自身で選べるだろう」
「三つの選択肢……ですか?」
聞けば、八重は今年で齢十二だという。そうなると光臣とはひとつ違いだ。武家の元服は家々によって差があれど、早ければ来年には立派な大人とみなされる歳になる。それでなくとも親がいないのならば、自らで人生という道を切り開いて行く必要があるのだ。光秀の提案は決して無謀と言い切れるものではない。
「ひとつは俺が懇意にしている寺へ行く事だ。ただし、仏門へ帰依する事になる以上、殺生は禁じられる。よって養父から教わったという罠師としての腕を活かす機会は失くなるだろうな」
「仏門……坊主になるって事ですよね……」
「ああ」
これまでも光秀は孤児となった子供達を、信用の置ける馴染みの寺へ預けて来たという経験が多々あった。この時代の寺も決して裕福という事はないが、最低限食事と寝床に困らない生活は出来る。
「あにうえ、おてら……なむなむってするの?」
「ああ、仏に仕える身になるという事だ」
「あたま、つるんってするの?」
「ま、まあそうだな……僧になるからには、剃髪はするだろう」
八重と光秀の会話を余所に、光鴇が隣へ座る兄へ向けてこそりと声を潜ませながら問うた。幼子らしい純粋な疑問というべきか、若干この状況では答え難い事でも平気で聞けてしまう辺り、さすがだ。無垢な眼差しを向けて来る弟に対して光臣が苦笑しながらも律儀に答えている中、光秀が話を続ける。
「ふたつ目は寺へ入らず、好きに生きて行く事だ。必要ならば、集落の者へ口利きしてやる事も出来る。獣の肉や毛皮はこの辺りでは需要もあるだろう」
おそらく、悪事へ加担していた事へ少なからず罪悪感を抱いている集落の者達は、光秀が口添えすれば快く少年を受け入れる事だろう。しかし、他よりは裕福な集落ではあるが、生計を立てる為には罠師としての腕を磨き続けなければならない。