❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
ようやく脅威が去った事によって人々の表情はすっかり明るくなり、集落の子供達が普通に外で元気に遊ぶ声が響く。その裏では光秀が領主一団を率いて来た織田軍と同盟傘下である武将との間で、攫われて来た子供達を親元へ返す算段をつけ、【童(わらべ)の岩戸隠し】の件は完全に幕引きとなったのだった。
そして現在、明智家の面々は八重が養生の為に与えられた一室へ集まり、褥に入りながら起き上がっている少年を囲んでいた。薬師の診立てでは内蔵などに損傷はなく、激しい打撲と栄養失調状態の所為で意識が朦朧としていたのだろう、との事だ。よく身体を休めて食事をしっかりと摂ればおのずと回復する、という薬師の言葉に胸を撫で下ろした面々であったが、中でもその反応が顕著だったのは光鴇だ。
他の子供達が集落の子らと混ざって雪遊びをする中、光鴇は八重の傍からほとんど離れる事なく、一緒にいた。余程心配だったのだろう、八重が起き上がって話す事が出来るようになるのに比例して、光鴇にも笑顔が増えていった事がとても印象的であった。
「八重くん、起き上がれるようになって良かったね。ご飯も今日の夕餉から、五分粥で大丈夫そうって薬師さんが言ってたよ」
「ありがとうございます。えーと……凪様」
「とき、たまごがゆ、すき!」
「じゃあ夕餉は卵粥にしよっか。差し入れで川魚の干物も貰ったし、宿の女将さんに厨借りれるか訊かないと」
「では俺もお手伝い致します」
捕まっていた子供達曰く、八重はほとんど自身で食べる事なく食事を他へ分けていたらしい。ほぼ何日も食べていない状態であった為、突然の食事は胃の腑を驚かせるからと重湯(おもゆ)に近い粥を与えられていたのである。殿様の奥方なのに厨へ立つのか……と内心で驚いていた少年を余所に、慣れている明智家の面々は話をトントン拍子で進めて行く。
「領主殿より頂いた干物もある。それも使うといい」
「わあ!じゃあ豪華な夕餉になりますね。宿の女将さんから蕪(かぶ)のお漬物も貰ったんです。白菜も頂いたし、今日は白菜のお味噌汁も作ろうかな」