❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
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山賊の根城となっていた平屋を後にした光秀らは、少し離れた松の木の陰で子供達と身を潜めていた凪と無事に合流する。鼻をぐずぐずさせながらも何とか泣き止んでいた光鴇であったが、母の顔を見ると再びぶわっと声を上げて泣き出し、父の腕から離れて自らの足で母の胸へと飛び込んだ。ははうえ、とき、ごめんなさいと何度も繰り返し謝る光鴇をきつく抱きしめながら凪も涙を流し、母子の再会に光秀と光臣は今度こそ心から安堵の息を零したのだった。
その後、捕らわれていた子供達共々集落へ戻った明智家の前には、話を聞きつけた集落の人々が集まっていた。山賊の報復を恐れて自らも悪へ間接的に加担してしまっていた事を酷く悔い、せめてもの償いとして、子供達へ暖かな粥を振る舞ってくれたのである。数日間、ほとんど汁のような粥を数人で分け合って食べていた事もあり、子供達は久々の馳走にたいそう喜んだ。そうして、子供達は一度凪達が宿を取っている温泉宿へ共に泊まる事となり、畳の敷かれた部屋で褥を敷き、平穏な夜を過ごしたのだった。
尚、光鴇を庇って怪我をした八重は、領主の命を受けた軍が山賊達を捕縛しに来る際、薬師を同行させてもらう事で話が通っている為、未だ絶対安静の状態だ。ひとまず滋養によく効く薬湯と、身体の鬱血や打撲に効く薬を凪が処方した為、それを飲んで一夜を明かした。ちなみに、何故領主の軍が集落へ訪れたかと言えば、光秀が策を実行に移す前に細工職人の元で一筆したため、集落の者へ届けさせていた為である。集落にいる老馬よりは速いだろう、と光秀の愛馬である大鹿毛(おおかげ)を貸してやった為、何とか早い段階で領主の元へ光秀直筆の文が届けられたのは幸いと言えよう。
光秀達が子供達を見事助けたその翌日の昼過ぎ、報せを受けた領主の一団が訪れた事で山賊達は残らず捕縛された。光鴇との約束通り、罪人といえど最低限の怪我の処置をする事を言い含め、長らく集落を脅かしていた山賊達は連行されたのだった。