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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



龍は一寸にして昇天の気ありとは、龍が一寸程の小さな身体でも天へ昇ろうとする気概を持つ事から転じて、幼いながらも非凡な才能を持つ者の事を指す。確かに山賊達を直接打ち倒したのは光秀と光臣だが、子らの大きな勇気と知恵と努力が戦局を動かした事は間違いない。煎り豆に花が咲くまで出て来るなと言った者達が、己の犯したあまりにも大きな罪の重さに初めて気付いた時にはもう遅い。

伝承における岩戸へ隠れた神、国常立尊(くにとこたちのみこと)は己にも、そして他者にも厳しく厳格な神であった。故に己の欲だけを満たす事を赦さず、争いを赦さず、和を尊ぶ神だと言われている。果たして山賊達がどのような経緯で子らを隠す事を【童の岩戸隠し】などと呼んだのかは不明だが、伝承になぞらえるのならば、彼らが犯した己の私欲のみを満たそうとする悪を赦す筈もない。

「どうやらお前達は、豆まきと岩戸隠れの伝承へ随分と思い入れがあるらしいからな」

笑いもしないままで光秀がふと、世間話でも持ち出すよう切り出した。光秀の言葉の意図が最初は読めず、偽行商人が怪訝な顔を浮かべる。自らが置かれている立場をまるで理解していない相手へ、ようやく光秀がくすりと鈴を鳴らすように小さく笑みを零した。そうして、だん!と銃口を下にしたそれを男の掌へ突き立てながら傍らへと片膝をつく。

「あ゛あ゛あ゛っ……!!!」
「次は、お前達が岩戸へ【隠される】番だ」

掌を貫通こそしていないものの、まるでそこを抉られたかのような痛みに襲われた男が苦悶の声を上げた。八重の傍にいた光鴇が、そのあまりにも痛々しい悲鳴を聞いてびくりと肩を震わせる。

「っ……はっ……なっ、なにを訳の分からない事を……!!!?」
「そう驚く事でもない。実にお誂(あつら)え向きだろう?」

あまりの痛みと、奥底からせり上がる恐怖に身体中から脂汗を滲ませた男が、恐れ慄(おのの)いた顔で傍らにいる光秀を見上げた。掌でこれ程の痛みだったのだ、同じ事を身体や顔にされたら、骨が折れてしまうかもしれない。

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