❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「もうだいじょうぶ、ちちうえ、たすけきてくれた!」
「そうか……良かった……あれが、お前の父上か……思った程、狐じゃないな」
「かっこいいきつねさん……!!」
初めて見る殿様とやらは、何やらとても強かった。髪の色や顔立ちはあまり光鴇とは似ていない気もするが、それでも幼子と同じ色をした金色の眸を見ると、確かに親子である事が感じられる。
狐のような殿様、だなんて一体どんな愉快な姿なのかと想像してみたが、賊相手にまるで怯む様子もなく銃を振るって刀を防ぎ、敵に容赦ない蹴りを食らわしている様はとても格好良い。心配そうな顔をしている光鴇に向かって、冗談めかした風に笑ってみせると幼子は頬を膨らませて反論して来る。
流行り病に罹(かか)った両親を救ってくれなかった偉い人達。せっかく家族になった罠師の養父を巻き込んだ戦と、それを引き起こす力を持った人達。自分の不幸を誰かの所為にして、何故自分だけがこんなにも辛い思いをしなければならないのかと、色んなものを憎んだり恨んだりもした。だが、それでも────自分は今、散々これまで恨み辛みを理不尽に向けていた内の一人の武士に、命を救われている。
「………光鴇、お前の父上………格好良いじゃん」
まあ、俺の父さんと養父さん程じゃないけどな。再び意識が遠退いていく感覚に瞼を伏せながら八重はそう言うと、一際穏やかな顔でぐったりと脱力した。
「!?ううっ……いたいいたい、とんでけ……!!」
青白い顔をしている少年が再び意識を失ってしまったのを前にして、光鴇が溢れんばかりに眸を瞠った。一度は引っ込めた筈の涙がじわじわと滲んで来て、幾筋も涙の跡が残る頬へ伝っていく。とんでけ、とんでけと何度も呪(まじな)いをかけるも、八重はぴくりとも動かない。
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら袖で涙をぐいっと拭い、自分の着ている小さな丹前を脱いで、父や母がしてくれるように光鴇が八重の痩せた身体へそれをかけてやった。