• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「くそっ……ふざけやがって!!てめえ等のお陰でせっかく割りの良い商売が上がったりだ!!どう落とし前つけてくれる……!!」

顔面を灰に埋められてもがき苦しむ男の後頭部から手を離した後、光秀がその横腹を蹴り飛ばした。戦で見るのとは違う、やや荒々しいそれは内に秘めたる冷たい怒り故なのか。

小馬鹿にした様子で薄く笑った光秀へ、再び突っ込んで来た敵の攻撃を難なく躱しながら反撃し、床へと沈めて行くその様を前にした偽行商人の男が、もはや自暴自棄になりながら声を荒らげた。眇めた鋭利な双眸で相手を見据えた光秀が、再び敵を伸して足元へ転がし、低めた音を発する。

「悪辣な商いがどうなろうと知った事ではないが、その言い分には同意だ」

唇に薄っすらとした笑みが浮かんでいる筈なのに、光秀の眸はこれっぽっちも笑ってなどいない。淡々とした音で紡がれたそれに底冷えするような何かを思わせ、偽行商人の男が息を呑んだ。足元に転がる気絶した賊を蹴って囲炉裏の灰へ沈めた後、光鴇と気を失っている八重、そして敵を倒した光臣が子供達を外へ逃しているそれらを庇うように立ちながら、光秀が不意に一切の笑みを消す。

「────お前達こそ、誰の妻子(つまこ)を泣かせたと思っている」

科白に込められた苛烈な感情は、その場の空気を冷たく震撼させた。妻を、子らを悲しませ、怖がらせたその代償はあまりにも大きい。己の強欲が身の破滅をもたらしたのだと未だ気付け無い偽行商人の男が、雄叫びを上げながら突っ込んで来る。

「………ん、」
「やえ!だいじょうぶ?おなか、いたいいたい?」
「まあそれなりに、な……それより、これは……」

光秀の背に庇われていた二人の子供達の内、賊に腹部を思い切り蹴り飛ばされた八重がようやく意識を取り戻した。込み上げる嘔吐感を必死で堪えながら浅い呼吸を繰り返し、霞む視界に映る景色で情報を得ようとする。八重が目を覚ました事に安堵した光鴇が、少年の蹴られた箇所へそっと触れた。少しずつ鮮明になって行く八重の視界に、真白な袴が翻っている様が映る。

/ 772ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp