• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



小さな童(わっぱ)が必死に立ち向かい、己なりの覚悟を決めたのだと察すると、未だ木片を手にして構えたままである光鴇へ視線を流す。

「鴇」
「!ちちうえ……」
「よく頑張ったな」

呼びかけに対して涙の溜まった目を瞠ると、父の穏やかな声が光鴇の鼓膜を揺らした。はっとしたように短く息を呑み、それから込み上げる様々な感情に、金色の猫目から涙がぼろぼろと溢れる。

「う、うううっ………」
「やれやれ、泣きべそをかくにはまだ早いぞ、仔栗鼠。まずは賊を片付けるのが先だ」
「うんっ……」

怖かった、心細かった────初めて人に向けた木片を握る両手の平は真っ赤になっていて、そこに光鴇がどれ程の力を込めていたのかが分かる。穏やかに声をかけてはいるものの、光秀の肚(はら)の底は冷たい怒りに満ちていた。怒りなど冷静な判断を鈍らせる不要な感情と普段ならば一蹴していたのだろうが、今はむしろその怒りこそが光秀を突き動かしている。

「い、いきなり出て来て随分と余裕じゃねえか……!だが所詮相手は一人だ!!やっちまえ!!」
「臣、子らを外へ」
「分かりました……!」

ぶん、と肩へ担いでいたマスケット銃を軽く振り、光秀が短く少年へ指示をした。気色(けしき)ばむ敵が間合いを詰めてきたのを前に、まずは手近な場所にいる────光鴇を斬り伏せようとしていた敵の凶刃を銃身で受け止め、その腹を正面から容赦なく蹴りつけた。がっ!と短く呻きを上げた男の頭部を銃の持ち手で強打し、そのまま後頭部を鷲掴むと顔面から壁へ思い切り叩きつける。

「ぐっ、あ……」
「くそ、一斉にかかれ!!餓鬼を狙っても構わねえ……!!」
「鴇、兄と共に外へ出ていろ。ここにいると巻き込まれる」
「……と、とき……」

味方の賊が呆気なく一人沈められてしまった有様を見た偽行商人が、奥歯をきつく噛み締めて激高した。光秀の指示を受けた光臣は自らの背に庇っていた子らを逃がすよう動き始めており、襲い来る敵の攻撃を躱(かわ)しつつ、壁伝いに出口を目指す。

/ 772ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp