❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
そうしてすぐに間合いから離れた光鴇が構えの姿勢を取るも、弁慶の泣き所を強打した所為で、手元の木片が折れてしまっている事に気付く。
(!ぶき、おれた……!)
「この餓鬼!!調子に乗りやがって……!!」
「鴇、逃げろ────!!」
片足を庇っていた賊が怒りに染まった形相で刀の峰ではなく、刃を向けて振り上げた。他の賊を相手取っていた光臣が敵の攻撃をいなしながらも必死の形相で声を張る。為す術なしとなった幼子が、自身に降りかかる賊の影を受けて強張った顔のまま後退した。
やがて男が刀を握る腕に筋を立てて振り下ろそうとした刹那────バァン!!!という鋭く騒々しい音と共に、閉ざされていた筈の扉とその前を塞いでいた賊の一人が前方へ吹っ飛んでいき、囲炉裏へ顔を突っ込む。
「何やら岩戸に仔狐と仔栗鼠が隠されていると聞いたが────」
突然の出来事に、居間にいた賊達や光臣、そして少年の背後で怯えていた子供達と、光鴇が一瞬息を呑んで入り口を見た。吹っ飛ばされた敵の一人が囲炉裏へ顔を突っ込んだ事で灰が白く舞う中、しっとりとした────普段よりも幾分低い声が全員の鼓膜を揺らす。とん、とん、とマスケット銃の銃身で肩を軽く叩きながら、見張りの賊ごと扉を思い切り蹴破って来た光秀は、倒れた木戸だったものの上を歩いて室内へ立ち入って来た。白い灰が晴れ、ようやく見えたその姿に、呆然と立ち尽くしていた光鴇の大きな眸に涙が滲む。
「二人は俺と愛しい妻との子だ。他の子ら共々、返してもらうとしよう」
とん、と再び肩に銃身を軽く叩きつけた後で、光秀が冷ややかな声色のまま言い切った。敵を煽る時は基本的に余裕めいた笑みを浮かべている父が、貼り付けた笑みすら浮かべていない様を目にすると、光臣の背筋をぞくりとしたものが這い上がる。
ざっと居間を見回した光秀は、それだけで大まかな状況を把握した。光臣が守るようにしている攫われた子らが数人と、壁際に蹲っている少年、そして光鴇と対峙していた男の赤く腫れた向こう脛と、幼子の手にある折れた木片。