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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



自分が痛いのは勿論嫌いだし、誰かが痛い思いをする事もまた光鴇にとっては同じくらいに痛かった。その気持ちは、小さな子供の中に今でもしっかりと根づいている。

「お前ら金づるどもは大人しく豆に花が咲くまで、あの狭い倉庫で飼い殺しされてりゃいいんだよ!どうせ誰も助けに来ねえ。我が身可愛さに岩戸には近付きもしねえ!」
「たすけ、くる……!あにうえ、きてくれた!ちちうえもははうえも、みんなきてくれる!」
「雑魚が何人集まろうが同じ事だ。お前も、餓鬼どもも出られねえ。悔しかったら豆に花でも咲かせてみろ!!」

誰かが痛いのは嫌だ。自分も痛いのは嫌だ。木片を握りしめる小さな両手がふるふると微かに震えた。その刹那、父の声が光鴇の脳裏を過ぎる。

───今後、お前が何かと戦わなければならない時は、必ず躊躇いは捨てる事だ。

(あきらめるの、もっとやだ────!!)

例え煎り豆に花は咲かずとも、岩戸を開け放つ勇気があれば何かがきっと変わる筈だ。それはおそらく、大義を背負った大きなものではなく、これまで厭うて来たほんの小さな一歩を踏み出す事から始まる。

だっと床を蹴った光鴇が賊の間合いを詰めた。まさか本当に幼子が立ち向かってくるなどとは思わず、男は一瞬虚を衝かれたように目を瞠るも、すぐに余裕めいた顔を浮かべる。大振りに刀を上段から振れば、幼子がそれを持ち前の素早さで見切って避けた。あっという間に光鴇が距離を詰めると、足元に落ちている椀を片手で拾って素早く囲炉裏の周りにある灰をすくい上げる。

「くらえ!!!」
「っ、そう何度も同じ手に……────」
「べんけいのなきどころー!!!」
「痛ええええ!!!」

ばっと椀の中の灰を投げつければ、、敵が目潰しされないよう腕で目元を庇った。しかしそれは所謂誘導であり、隙だらけになった賊の向こう脛(むこうずね)目掛けて、思い切り木片を振り抜く。ばきっ!とけたたましい音を立てたその一撃は大人にとっても痛烈な痛みであり、思わず男が情けない悲鳴を上げた。

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