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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「おい、顔は傷つけるなよ!男だろうが女だろうが顔は上玉だ。高値で売れる事には違いねえ!」
「まだそんなふざけた事を……!」

このような状況下においても光臣を商品としてしか見ていない山賊達へ静かな怒りを抱き、無防備に向かいからやって来る男の腹部へ父親譲りの鋭い蹴りを食らわせた。しかしさすがに多勢に無勢というべきか、大人複数人を相手取るには室内だと中々に不利だ。奮闘する光臣の背後を再び衝いた山賊の男が少年を羽交い締めにし、別の敵が先程のお返しと言わんばかりに腹部を狙って拳を繰り出した────その瞬間。

「とつげきー!!!」
「わあああ!!!」
「何だこの餓鬼ども!!!?」

渡り廊下の方から、ちんまりとした子供達が武器である木片と椀を持ち、居間へ雪崩込んで来た。あまりの急襲ぶりに山賊達のみならず光臣も双眸を瞠る中、子供達の先頭を駆けていた光鴇が木片の切っ先をびしっと敵へ指して号令をかける。

「はなてー!!!」
「くらえー!めつぶし!!!」
「めつぶし!!!」

目潰し、目潰し、と子供らしからぬ物騒な単語が飛び交う中、光鴇の号令を受けた子供達が椀の中身を手近にいた山賊へ浴びせた。ふわりと香ってくるそれは何やら覚えのある香りであり、目潰しという単語の意図から何事かを察した光臣が自身を捕らえている賊の腹部へ肘を打ち込めば、拘束が緩んだところで袖を鼻や口元へあてがいつつ光鴇の元へ駆ける。

「鴇!!」
「!!?」

子供達の風藤葛(ふうとうかずら)粉末を浴びた賊達が襲い来るくしゃみや涙、目の痒みに襲われている中を掻き分けて弟の元へ迎えば、光鴇は光臣の姿を目にして不思議そうに首を傾げた。そうしてすぐにむすっとした顔をすると、ふっくら丸い頬をぷくりと膨らませる。

「しらないひとと、おはなししちゃめって、ちちうえがいってた!」
「知らない人ではないだろう!お前の兄だ……!」

此度の拐(かどわ)かしが光鴇の中で相当堪えているのか、然程も守った事のない言いつけを我が物顔で言い切れば、光臣が思わず突っ込んだ。兄、と言われて思い当たる節でもあったのか、幼子が今度こそ大きな猫目を丸々としながら光臣を見る。

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