❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「おい!!格子窓開けろ!!」
父が予測した通り、偽行商人の男が声を荒らげた。視界が不明瞭な上、何が起こったのか分からない状況故に混乱状態へ陥っていた山賊達が我へ返ると、一斉に格子窓を開け放つ。そうすれば煙は外へと逃されていき、少しずつ室内に満ちていたものが薄れていった。父は間違いなくこの近くまで来ている。この狼煙代わりの煙を見て、状況を察してくれる事だろう。
(あとは山賊どもを子らから離さなければ……!!)
山賊の一人が囲炉裏の火を消し止めた事で煙が薄れ、少しずつ視界が明瞭になって来た頃、光臣はまず最初に渡り廊下へ繋がる出入り口付近にいる敵へと間合いを詰めた。煙を吸い込んで咳き込んでいる男の鳩尾へ肘を叩き入れ、体勢を崩したところで足払いをかける。
「ぐっ、何だこの女……!?ふざけやがって……!!」
「入りが甘かったか……!」
日頃新兵としての訓練を受けていたとしても、大人とまだ少年と呼ばれる年頃の子供とでは、力に明確な差があった。確かに一撃急所へ打ち込んだ筈だが、すんでのところで堪えた敵が足払いを受けてたたらを踏みつつも、すぐに持ち直す。悔しげに柳眉を寄せた光臣が再び攻勢へ転じようとしたところ、背後からやって来た敵の凶刃を紙一重で避ける。
「こいつ、やっぱり集落で会った小僧だったか!わざわざ攫われた弟を助けに来るたあ、涙ぐましい兄弟愛ってやつだなあ!?」
「黙れ外道。鴇や他の子らを返してもらう……!」
「その勇ましさが何処まで保つか見ものだな!!」
刃こぼれした粗雑な無銘を振るっていたのは、偽行商人の男であった。解いた状態の長い銀糸を鬱陶しそうに片手で払い、涼やかな双眸に怒りを滲ませる。もはや今更隠し立てしても無駄とばかりによく通る少年声で言えば、相手は所詮小僧とばかりにせせら笑い、男が間合いを詰めた。少しずつ白い煙が薄れて来た事を好機とばかりに、他の山賊達も光臣を取り押さえようと襲い来る。