❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
───人が五感でもっとも重要視しているのは視覚だ。ならば、それを奪えばいい。
(しかく、うばう!!!)
ぎゅっと椀を握る手に力を込めた拍子、倉庫内へ立ち入って来た男の死角から小さな身体をとん、と跳ねさせ、椀の中に入っている胡椒風な粉を思い切り顔面目掛けてばっとかける。
「くらえ!おめめつぶし!!!」
「な、なんだこの粉……!!?ぶぁくしょん!!!?目が!目が痒い!!!?」
予め風藤葛について子供達に伝えていた為、光鴇を含めた子供達は粉を浴びたり吸ったりしないよう、男とすぐに距離を取った。顔面へもろに風藤葛の粉末を食らった男は、驚嘆と共に思い切り鼻から粉を吸ってしまい、むず痒さからくしゃみが止まらなくなる。
ついでに目も粉の所為で痒くなり、開けていられない程に涙が溢れて身悶えた。何度も手で目をこするも、ますます悪化していくばかりの男が中々罠の元まで行かない事に焦れた幼子が、空になった硬い木製の椀を男の股間へ投げつける。
「おわんもくらえー!!!」
「痛え!!!?」
光鴇本人はまったく預かり知らぬ事だが、投げた物の命中率が極めて高いのは、実は母親譲りの隠された才能である。椀の高台(こうだい)部分が見事、弁慶の泣き所よりも急所と言われる場所に当たり、飛び跳ねるようにして悲鳴を上げた賊が足を踏み出した。それを目にした八重が、素早く罠の仕掛け部分となる麻縄を引っ張り、くくり罠を発動させる。
「掛かった!!」
「な、なんだ!!?ぎゃあ────!!!?」
円状に置かれた縄を軽く浮かせてタイミング良く引っ張り、賊の足首を捕らえた。そうして倉庫内のあちこちへ引っ掛けた縄が、竹がしなる力を利用して男を天井の梁(はり)へ吊り上げる。男が容易に落ちないよう八重が麻縄を柱へきつく結ぶと、粉の入った椀を手にして光鴇の元まで駆けた。他の子供達も開け放たれている扉を目に、希望を抱いた眸で視線を交わし合う。
「みんな!とつげきー!!!」
「わあああ!!!」
「ちょ、静かに行けよ、お前ら!!」