❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
子供達全員の腰には、倉庫内に放置されていた手頃な長さの木片などが、さながら木刀の如く帯へ引っ掛けられている。
皆真剣且つ緊張の走る面持ちを浮かべる中、光鴇が手頃な木箱の上へよじ登って全員を見回した。戦などへ出立する前、父が馬上で兵達へ声をかけていた事を思い出すと、母に良く似た面持ちをぎゅっと引き締める。
「みんないっしょ、にげる!わるいやつなんかに、まけない!」
「まけない!」
「むらにかえる!」
「たたかう!」
兵を鼓舞する父の姿を思い出しながら、光鴇が握った小さな拳をえいっと突き上げた。それへ呼応するよう、他の子供達も次々と気合いの入った声を上げて拳を高い天井へ向ける。まだ自分よりも小さな子供が、家族の元へ帰る為に必死で戦おうとしている様を目にすると、少年は何とも言えぬ気持ちが込み上げて眉尻を下げた。光鴇にも、そして他の子供達にも帰りたい場所があるのだと思うと、何だかとても羨ましい。
「今回の作戦の総大将はお前だな。えーと……光鴇、だっけ」
「とき、そうだいしょう……!かっこいい……!」
心の内側に入り込む冷たい隙間風へ見て見ぬ振りをして、少年が告げた。戦ごっこでは度々総大将を任せられているが、実際の策で役目を与えられたのは当たり前だが初めてだ。きらきらと大きな猫目を輝かせた光鴇が、やがて大きく頷く。
「わかった!しんがりは、ときにおまかせ!」
「戦の事は良く分からねえけど、普通総大将は殿(しんがり)やらないだろ。そういうのは家臣の仕事だ」
「むっ、ときしんがり、とくいなのに」
「普通、殿(しんがり)なんて皆やりたくないだろ。変な奴」
「へんなやつじゃないよ、ときだよ」
「いや……それは知ってる」
何処か不機嫌そうにむすっとした表情を浮かべた幼子を前に、少年が呆れた様子で笑った。そうしてふと光鴇が何かに気付いた様子で目を瞬かせ、木箱に乗った事で目線が程々に近くなった少年を見つめる。
「とき、まだなまえ、しらない」
「俺の事か……?俺は八重(やえ)だ」
「やえ!あのね、ときはとき」