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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



複数人の子供が何事かを叫んでいる声と、扉でも叩いているかのような鈍い音。光臣の脳裏に小さな弟の姿が思い浮かび、ひやりとした感覚が背筋を這い上がる。この場で下手に口出し出来ない事実を口惜しく感じ、銚子を持つ手へしたたかに力を入れていると、偽行商人の男が至極面倒臭そうに舌打ちを響かせた。そのあまりな口振りに内心怒りを覚えながら、光臣が平静を保とうと唇を引き結ぶ。

(鴇………っ)

「お前、様子見て来い。万が一気でも狂った餓鬼が火鉢の木炭で小火(ぼや)でも起こそうもんなら、大惨事だ。言う事聞かねえなら火鉢奪って、見せしめで二三発殴ってもいい。ちょうど売れ残ってるでかい餓鬼がいただろ」
「ったく、何で俺が……」

偽行商人の男が別の相手へ指示すれば、先程まで盃を傾けていた男が渋々といった風に渋面を作った。その不服も露わな男へ、口角を持ち上げた偽行商人が盃の中の酒をゆらゆらと揺らす。

「例の商人の餓鬼の親から分捕る予定の金、多めにくれてやるよ」
「それならいいか。その話、忘れんじゃねえぞ」

親から分捕る金、とは一体何の事なのか。話の意図はいまいち理解出来なかったが、どの道碌な事ではない。指示を受けた男が嬉々とした様子で立ち上がり、渡り廊下へ繋がる出入り口を潜って行った。未だ聞こえて来る子供達が騒ぐ声の中に、弟の声が混じってはいないかと耳を澄ませる光臣の横へ、ふと偽行商人の男が腰を下ろす。

荒々しく片膝を立てて座った相手へ、少年が心の臓をどくりと微かに跳ねさせた。長い髪をさながら御簾(みす)のようにして垂らし、背を丸めて顔を俯かせている光臣の顔に興味でもあったのか、男が身を寄せて双眸を眇める。

「……お前、集落に住む細工職人の姪といったな」
「は、はい……」
「今日、ちょうどお前の髪色と同じ小僧と、優男を見た。本当に職人の姪なのか?」
「偽りなどありません……」

(この男、小僧はともかく優男とはよもや父上の事を言っているのか?だとすれば何と見る目のない……)

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